日経ものづくり 特報

欧州のコア,ベルギーで
“反成果主義”工場

カネではなく敬意で応える


欧州有数の工業国であるベルギー。この国に工場を構えるメーカーが,競争力の飛躍に向けて走り始めた。原動力は,従業員が仕事に前向きに取り組むモチベーション(意欲)。だが,このモチベーションは給料の多寡では決して高まらないとベルギーメーカーは考える。では,何が必要か。Volvo Europa Truck社,Caterpillar Belgium社,Honda Europe社,Unilever Lipton Tea Brussels社の4メーカーに「欧州企業価値視察団」を派遣した日本プラントメンテナンス協会が,その「回答」を見いだした。(中村 努=日本プラントメンテナンス協会国際部次長,近岡 裕=本誌)

 柔らかな自然光が差し込む,ゆったりとした空間の工場。そこで働く従業員が,改善点を思い付くや否やチームのみんなに知らせる。すると,チームはその話題で盛り上がり,具現化する方法をみんなで考えては試していく。従業員のほとんどが,一人ひとりの改善が会社の競争力を支えると信じており,現場の改善に自発的に取り組んでいる。
 一昔前の日本メーカーを彷彿とさせるモチベーションの高い現場が,ベルギーにあった。しかも,同国に進出した外資系メーカーであるVolvo Europa Truck社の工場だ。果たして,同社の従業員は,改善という“成果”に対する金銭的なインセンティブ(報酬)だけで,高いモチベーションを保っているのだろうか。
 「成果主義」を導入したメーカーの経営者や人事担当者の多くは,この問いに首を縦に振るかもしれない。だが,同社に限らずベルギーに工場を構えるメーカーは,この問いに首を横に振る。これは,筆者が複数のベルギーメーカーのものづくり現場を見て抱いた率直な感想だ。
 日本プラントメンテナンス協会が主催した「2006年度欧州企業価値視察団」が訪問先にベルギーを選んだのは,欧州で第1位,世界では第2位の化学工業を基盤に,精力的にものづくりに取り組む欧州有数の工業国だからだ*1。例えば,自動車の生産台数は年間100万台を超える。欧州連合(EU)が本部を構えることから,EUが打ち出す産業政策に敏感に対応する地であることも考慮した。
 そして何より,日本メーカーに人気の高い地域であることだ。ベルギーは欧州のほぼ中心に位置する。そのため,日本を含むEU域外から,材料や部品を運んで製品を生産し,欧州各国の市場に投入する際の物流拠点としても効率が優れる。企業誘致にも積極的で,工場の建設に関する規制がドイツや英国ほど厳しくなく,人件費も相対的に低い。日本の製造業にとって魅力的な条件を備えた国である点に,我々は注目したのである。

日経ものづくり 特報
図●Volvo Europa Truck社の明るい生産ライン
天井をガラス張りにして自然光を取り込む。快適性と電力コスト削減を両立できる。また,生産ラインは直線状で,シャシーを載せた台車が真っすぐ進み,両サイドから各種部品を組み付けていく。見通しが良く,進ちょく状況や問題がすぐに分かる。