日経ものづくり 事故は語る

緊急レポート
リチウムイオン2次電池発火事故

 ノートパソコン(PC)向け電池パックの安全性が揺らいでいる。ソニー製リチウムイオン2次電池セル(電池セル)を使った電池パックで発火事故が相次いでいるからだ。
 発火事故に対するソニーやノートPCメーカーによる情報開示が遅れた揚げ句,日本の大手PCメーカーがこぞって電池パックの「安全宣言」を打ち出した後に発火事故を起こすなど拙速な対応が露呈。不安が不安を呼ぶ状況を生んでいる。ノートPCメーカーは電池パックの回収および無償交換(自主回収)に着手したが,後手に回った印象は否めない。
 世間に大きな不安が広がる中,2006年10月24日になって,ソニーが発火事故の原因に対する技術的な解説と,電池パックの自主回収計画「自主交換プログラム」を説明する会見を開いた。同社はこのプログラムの実施で,合計960万個の電池パックを自主回収し,510億円にも上る特別損失を計上した。


正極と負極の短絡で発熱
 発火事故を起こし,ソニーが自主回収の対象としたノートPC向け電池パックは,同社が2003年8月~2006年2月に生産した容量2400mAhと2600mAhの電池セルを組み込んだものだ(図)。
 電池パックは複数の電池セルと保護回路から成る。一つの電池パックに入っている電池セルは5~6個だ。電池セルの数や保護回路は各メーカーやノートPCで異なっており,ノートPCメーカーが仕様を決め,電池メーカーがそれに応じた電池パックを生産して納品するというのが一般的だ。
 ノートPCメーカーがソニーに提示する仕様のレベルは各メーカーによってさまざま。ソニーにほぼ任せるものもあれば,企業秘密としてあまりオープンにされないもの,逆に「保護回路のICや型番まで細かく指定されるものもある」(ソニー執行役副社長でセミコンダクタ&コンポーネントグループ担当の中川裕氏)。
 こうして造られる電池パックが異常発熱や発火事故を起こす原因には,外部的な要因と内部的な要因の二つが考えられるという。外部要因とは,電池パックに収められた電池セルに過度な衝撃や熱を加えることで,内部要因とは,主に電池セルの内部短絡(ショート)のことだ。このうち,米Dell社や米Apple Computer社のノートPCで起きた発火事故について,ソニーが「第1要因」として認めるのが,内部短絡である。

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図●ソニーの円筒型電池セル
ノートPC向けの電池パックに組み込んだ容量2400mAhの「G7」シリーズと2600mAhの「G8」シリーズの一部が市場で発火し,自主回収することになった。直径18×高さ65mm。