日経ものづくり 直言

「日本的経営」の継承と
新システムの再構築を

カルソニックカンセイ 名誉顧問
早稲田大学 日本自動車部品産業研究所 副所長
大野 陽男


 日本の自動車産業の強さの根底には大きく二つの要素があると考えている。一方は「日本型開発・生産・取引システムの有効性」であり,もう一方は自動車という製品のものづくりに適した「日本人の資質」である。
 日本の開発システムはデザイン・インに代表されるように,新車開発の早い段階から部品メーカーが参画し,自動車メーカーと共同で開発を行う方式。生産システムについてはトヨタ自動車の「かんばん方式」に代表される効率的な生産管理,品質管理,在庫管理などのシステムがある。また,取引システムは自動車メーカーと部品メーカーの,長い間の信頼関係に基づいた長期継続(安定)取引システムである。
   一方の「日本人の資質」については,長年の終身雇用制や年功序列制,人材育成で培われた日本人の勤勉さ,仲間意識,帰属意識そして対応力,柔軟性がものづくりの上で大きく貢献していると考えられる。同じ会社に長く働けるからこそ社員は安心して必要な知識・技能を身に付け,上司も長期的な視野に立った「人の育成,技術・技能の伝承」が可能であった。
 いわば自動車メーカーと部品メーカーの「信頼関係」と「安心の社会」が形成されており,この暗黙の了解があるからこそ,安心して長期的な視野に立って共同開発・研究や,設備投資などができた。
 しかし,グローバル化の進展とともに日本のこの良さが後退しつつあるのは極めて残念である。世界最適調達の名の下に「安くて良いものであればどこからでも購入する」という低価格化傾向が急速に進み,長期継続(安定)取引の保証がなくなった。部品メーカーは目先の原価低減にきゅうきゅうとし,長期的な視野で開発,投資をする余裕が減少しているような気がしてならない。

日経ものづくり 直言
大野 陽男
1958年早稲田大学法学部卒業,1987年日産自動車取締役,1989年同社常務,1991年北米日産社長,1993年カルソニック社長,2000年カルソニックカンセイ会長,同年自動車部品工業会会長。