日経ものづくり ドキュメント

レクサスLSの開発 第2回

頂ははるか遠く

【前号のあらすじ】
トヨタ自動車「レクサス」のフラッグシップである「LS」は,ブランド価値を高めるだけでなく収益も大きく伸ばさなくてはならない。チーフエンジニアの吉田守孝はホイールベースのロング化に加えて,高性能パワートレーンの導入を決意する。高性能化の手段は,エンジンとモータを組み合わせたハイブリッド・システム。そのハイブリッド・システムに組み込むエンジンをどうするか。果たして,その方針を聞いたエンジン開発部門からは強烈な反発を受けることに。



 収益の確保とブランド力の向上。LSに与えられた二つの使命を果たすために,トヨタ自動車でLSのチーフエンジニア(CE)を務める吉田守孝は,歴代のLSが守り続けてきた「1プラットフォーム,1エンジン」という伝統をあえて捨てた。収益を確保するベース車とは別に,ブランド力を高めるためのプレミアム車種を投入する,と。その一つがロング・ホイール・ベースであり,一つがハイブリッド・システムを搭載した高性能パワートレーンであった。
 吉田は,エンジンの開発部隊との打ち合わせに臨み,初めてハイブリッド・システムの構想を語った。
「というわけで,ハイブリッド・システムを採用し,そこにはベースエンジンとは別のエンジンを組み込みたいと考えています」
 この瞬間,エンジンの開発部隊の目つきが険しく,そして冷たくなった。吉田には,会議室の温度が急に2~3℃下がったように感じられる。エンジン開発を指揮する旭哲治が,吉田の真意を計りかねて質問した。
「吉田さん,別のエンジンとは,どういうことですか」
「ベースエンジンより排気量をアップさせたいんです」
「V8のままで?」
「ええ,V8のままで」
「それなら,開発中のV8エンジンでも良さそうなものだけど・・・」
「もっと走るようにしたいということと,差異化という意味があります」
「差異化? ハイブリッドにした段階で,既に差異化できていると思いますけど・・・」
「そうなんですが,さらに純粋にエンジン自体で差異化したいんです。誰がどこから見ても正真正銘,最高のパワートレーンだと分かるように」
 吉田のきっぱりとした口調には,その決意に微塵の揺るぎもないことが現れている。
「それはそうかも知れませんが,別のエンジンを開発すること,ましてや排気量をアップすることがどれだけ大変か・・・」

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