日経ものづくり トヨタ生産方式の真髄と新展開

第11回

開発・設計部門への展開

吉原 靖彦
中部産業連盟 東京本部
主席コンサルタント
山崎 康夫
同連盟同本部
主任コンサルタント

製造業の中核となる開発・設計部門においても,多くのムダが存在している。これらのムダは,平準化や段取り時間の短縮,流れ作業化など,トヨタ生産方式の考えを取り入れることで,多くは削減できる。これにより,全社的にQCDの改善に拍車が掛かることになる。(本誌)


 前回は,トヨタ生産方式を管理・間接部門に展開する考え方を述べた。業務に関する問題点と業務効率化の狙いを整理した上で,トヨタ生産方式を問題点の解決に利用する手法を記述した。今回は,技術部門(開発・設計)を対象に,トヨタ生産方式の考え方と展開について,事例を交えながら記述する。

ムダが多くQCDも改善できず
 まず初めに,技術部門が開発・設計業務を進める上で抱えている次のような具体的な問題について,整理してみるとよい。

問題(1) 製品のシリーズ化,製品のユニット化などの標準化が進んでいないため,ムダな図面を作成している。
問題(2) 技術情報の共有化と開発・設計業務(設計手順,技術計算やCAD作業)の標準化が十分に行われていないため,設計業務が設計者任せになっている。
問題(3) 顧客の要求仕様がなかなか固まらないため,設計の着手が遅れて出図が遅れる。あるいは仕様が固まらないうちに設計に着手して,仕様変更による設計のやり直しが発生する。
問題(4) 開発・設計案件について,日程計画進度管理が担当者任せになっており,その上,設計工数の計画も詳細化されていないため,結果として日程遅れが慢性化している。
問題(5) 設計職場としての知力を結集できる体制が構築されていないため,開発・設計者が1人で悩み,設計作業の進展が中断することも多く,設計作業効率が低い。
問題(6) 市場クレームや顧客クレームが設計者に的確に伝わらないため,適切な是正処置や予防処置が実施されず,設計品質不良が慢性化している。
問題(7) コストダウンを要求されているものの,設計コストを事前に計画せずに設計しているため,結果として狙った設計原価を達成できない。
問題(8) 設計リードタイムの短縮などが図られないため,市場のニーズに応えられない。

 このように,開発・設計部門には非常に多くのムダが存在している。QCDを向上させようと目標を立てても,ムダが業務の邪魔をして,未達成で放置されていることが多い。
 開発・設計管理の本質とは,前工程対応,すなわち市場や顧客の声または要求を的確に設計に取り入れること,さらに後工程対応,すなわち調達や生産準備,製造などがQCDを向上できるように準備することにある。しかし,ムダが多くあるため,必ずしもこれらの期待に応えているとはいえないのが多くの製造業の現状だ。