日経オートモーティブ 特集

燃費向上ニーズの高まりを背景に、CVT(無段変速機)を搭載する車種が増えている。日産自動車が2007年度に搭載比率で5割を目指すなど、日本国内での普及は急ピッチ。半面、高速走行時は伝達効率が低下するため、欧米での普及は限定的。こうした弱点を克服し、CVTは変速機の主流になれるか。(鶴原吉郎)

【Part1:どこまで広がるCVT】

国内各社が搭載車種を大幅拡大
効率向上がカギ握る欧米への普及

【Part2:金属ベルトCVTの進化】

駆動損失低減目指し構造を工夫
ポンプを別置き、減速機を入力軸に

【Part3:トロイダルCVTの反撃】

遊星歯車と組み合わせて効率を向上
フルトロイダルの改良も進む

【Part4:ATの多段化】

機械要素を減らした6AT、8AT
制御技術の進化で可能に


【PART1】どこまで広がるCVT
国内各社が搭載車種を大幅拡大
効率向上がカギ握る欧米への普及

CO2削減要求の高まりを背景に、CVT(無段変速機)の採用が広がってきた。 日産自動車が国内に続いて米国でもCVTの搭載車種を大幅に拡大する一方で、 トヨタ自動車も主力車種のカローラに採用。軽乗用車でもダイハツ工業が搭載を始めた。 ただし現在のCVTは高速巡航時の効率が低く、欧米での普及は限定的。 さらなる拡大には、効率向上や低コスト化などの努力が不可欠だ。


 日産自動車が米国で新型車の大攻勢をかけている。それらの新型車の最大の武器はCVTだ。2006年6月に「Versa(日本名ティーダ)」と部分改良した「Maxima」を投入したのを皮切りに、2006年10月にはコンパクトセダンの「Sentra」、さらに11月には米国での最量販車種である「Altima」を全面改良する(図)。これら4車種にはいずれも、従来の5AT(5速自動変速機)や4ATに代わって金属ベルトCVTを採用する。従来、日産が米国での販売車種でCVTを設定していたのは「Murano」だけ。日産が米国で販売するCVT搭載車種は従来の1車種から、一挙に5車種に増えることになる。
 日産自動車社長のCharlos Ghosn氏は2005年4月の記者発表で、2007年度のCVT搭載車種の世界販売台数を、2004年度の4倍に当たる100万台に増やすことを公約している。日本と北米を中心に拡販し、CVT搭載率を2004年度の約7%から約24%とし、日本では50%、米国では40%まで引き上げる。
 日産は国内メーカーで最もCVTの搭載に積極的で、すでに排気量1.5Lから3.5LクラスまでカバーするCVTを商品化し、国内向けFF(前部エンジン・前輪駆動)車のほとんどにCVT車の設定を終えている。米国でのCVT搭載車種の大幅拡大は、日産のCVT拡大戦略が次の段階に進んだことを意味する。

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図●日産が米国市場に投入するCVT搭載の新型車
(a)新型「Altima」、(b)新型「Sentra」


【PART2】金属ベルトCVTの進化
駆動損失低減目指し構造を工夫
ポンプを別置き、減速機を入力軸に

現在CVTで主流の金属ベルトCVT。しかしまだ、伝達効率の向上が課題として残っている。 最近増えているのがオイルポンプを別置きにし、チェーンで駆動する方式。 オイルポンプの回転数を上げることで、ポンプ効率を上げることが可能だ。 入力側に減速機を置くことでプーリの回転数を下げ、損失を減らす新しいCVTも登場した。 変速パターンの制御もますますきめ細かくなっている。



 Part1で触れたように、現在普及しているCVTの主流は金属ベルトCVTである。この金属ベルトCVTでは、駆動力の伝達効率を向上させることが技術的な課題になっている。富士重工業とダイハツ工業はそれぞれ、新型軽乗用車「ステラ」「ソニカ」に搭載した金属ベルトCVTに、独自の効率向上の工夫を盛り込んだ(図)。
   このうち富士重工業は、従来から軽乗用車向けにCVTを搭載してきた、いわば「老舗」である。同社が第1世代のCVTと位置付ける「ECVT」は、1987年に実用化したもので、発進クラッチに磁性粉を使った電磁クラッチを組み合わせたのが特徴だ。この電磁クラッチは、伝達効率が高いという特徴はあるものの、クリープがない、使い方によっては耐久性が低いなどの問題があった。このため同社が1998年に実用化した第2世代の「i-CVT」では、発進クラッチをトルクコンバータに改めた。
 これで発進のスムーズさや耐久性の問題は解決したものの、今度は伝達効率でECVTに及ばなくなってしまった。このため新型i-CVTの開発では伝達効率の向上が開発の課題になったという。
 伝達効率の向上と並ぶもう一つの開発の狙いは、より幅広い車種への適用だ。今回のi-CVTは、富士重工業とジヤトコが折半出資で設立したCVTの製造会社「富士AT」が生産を担当する。ジヤトコにとっては、CVTラインアップの拡大につながる一方、富士重工業にとっては、外販の可能性が広がり、量産規模の拡大によって生産コストの低減が見込める。

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図●最新のCVT
(a)富士重工業が「ステラ」に搭載した新型CVT。オイルポンプを入力軸とは別置きにし、摩擦損失を低減した。(b)ダイハツ工業が「ソニカ」に搭載した新型CVT。入力プーリの前に遊星歯車減速機を置き、効率を向上させた。


【PART3】トロイダルCVTの反撃
遊星歯車と組み合わせて効率を向上
フルトロイダルの改良も進む

コストが高いことやATより伝達効率が低いことで普及が遅れていたトロイダルCVT。 しかし、こうした難点を解消できる新機構を搭載し、復活の機会をうかがっている。 秘策は遊星歯車機構と組み合わせて伝達効率を向上する新システム。 コストも量産時にはATと同等にできると見込む。 実用化では遅れをとったフルトロイダルCVTの改良も進んでいる。



 トロイダルCVTは、入力側と出力側の2つのディスクの間に挟まれたコマ(パワーローラ)の傾斜を変化させ、動力伝達半径を変えることで無段階に変速するCVT。向かい合う二つのディスクの表面が、ちょうどドーナツのような形状をしている「フルトロイダル式」と、フルトロイダル式の内側半分だけを取り出したような形状のディスクを使う「ハーフトロイダル式」がある(p.107の別掲記事参照)。
 まず日本精工が、20年にもわたる苦労の末にハーフトロイダルCVTの変速機構部分(バリエータ)の開発に成功し、ジヤトコ、日産自動車と共同で変速機に仕上げ、1999年に日産自動車が「セドリック」「グロリア」に搭載して発売した。その後「スカイライン」にも搭載された(図)が、セドリック/グロリアの後継車種である「フーガ」には採用されず、2006年秋に予定されているスカイラインの全面改良でも、トロイダルCVT搭載車種はカタログから落とされる見通しだ。
 このように、苦労の結果実用化にこぎつけたにもかかわらず、トロイダルCVTを巡る状況は厳しい。その最大の理由はコストが高いことにある。スカイラインでトロイダルCVT(日産はエクストロイドCVTと呼ぶ)を搭載するグレード「350GT-8」は同じ3.5Lエンジンに5ATを組み合わせる「350GT」より燃費は優れるものの、価格は414万7500円と、350GTの328万6500円に対して81万1000円も高い。350GT-8は本革シートや本革巻きステアリングなどを装備するなど、350GTとは仕様の違いがあるので一概には比較できないが、価格差の相当部分はトロイダルCVTのコストアップ分だとみなすことができる。

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図●実用化したハーフトロイダルCVT
日本精工、ジヤトコ、日産自動車が共同で開発した。現在日産の「スカイライン350GT-8」に搭載されているが、2006年秋の全面改良ではトロイダルCVT搭載車はカタログから落とされるようだ。


【PART4】ATの多段化
機械要素を減らした6AT、8AT
制御技術の進化で可能に

トヨタ自動車が9月に発売した「レクサスLS460」は 世界で初めての8ATを搭載する(図)。 大トルクエンジンの動力性能を最大限に引き出すための多段化だ。 注目すべきは従来の6ATより機械要素がむしろ減っていること。 制御技術や構成部品の進化がこれを可能にした。



 小・中排気量のFF車では積極的にCVT化を進める一方で、大排気量のFF車やFR車ではATの多段化を積極的に推進しているのがトヨタ自動車。2006年1月に開催されたデトロイト・モーターショーでは、このショーで初公開された新型「LS460」のATが世界初の8速であることが発表されると、詰め掛けたプレス陣からどよめきが起こった。
 これまでATの多段化ではDaimlerChrysler社が採用している7速の「7G TRONIC」が最高だった。8速という多段化は、これを意識したように見える。しかし開発を担当したトヨタ自動車パワートレーン本部第2ドライブトレーン技術部第1AT技術室グループ長の本多敦氏は「LS460向けの新型ATを開発し始めたとき、7G TRONICはまだ商品化されていなかった」と、8速化が7G TRONICを意識したものという見方を否定する。
 8ATを採用したのは「500N・mという大トルクの新型エンジンの動力性能を生かし、かつ良好な燃費を実現するには8ATが必要だと判断したから」(本多氏)。結果として、今回の8速化によって、同じ4.6Lエンジンと組み合わせた場合、6ATより北米モード走行燃費は6.5%向上し、0-96km/hの加速時間は2%短縮するという。

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図●レクサス「LS460」に搭載された8AT
8速化したにもかかわらず、従来の6ATより部品点数はむしろ減らした。