日経ものづくり ドキュメント
新シリーズ

プロデュース 中小企業上場の軌跡 第5回

男の涙

【前号のあらすじ】
マルチノズルという新しいアイデアを得て,セラミックス・コンデンサの電極塗布装置の開発に乗りだした,プロデュースの佐藤英児と高野博。だが,始めのうちは失敗の連続。200万円のノズルを1回で台無しにしたこともあった。開発を任された高野は日々実験と試作を繰り返すも,開発は遅々として進まず,若手技術者を採用しててこ入れを図る。そんな折,開発チームは,導電ペーストの特性が電極塗布に大きな影響を及ぼしていることに気付く。



 メカは強いが材料には弱い。セラミックス・コンデンサ向けの電極塗布装置の開発で露呈したプロデュースの弱点。機構設計は高いレベルに達していたものの,導電ペーストの特性や塗布時の挙動を把握し切れていなかったために思い通りに電極を形成できなかった。だが,いったん高野博ら開発チームがこの弱点に気付くと,開発は徐々に,しかし確実に前に進み始めた。
 とはいえ,その足取りはいまひとつ重い。これまでの開発投資がプロデュースの台所事情を圧迫し,資金繰りに苦戦して実験や試作などが思うようにできなくなっていたからだ。経営を預かる佐藤英児に不安がよぎる。予想以上に開発期間が伸び,予想以上に資金を使ってしまった。このまま開発を続けていたら,倒産するかもしれない。どうすればいいのか。あの話もダメになった今となっては・・・。
 あの話とは,2001年暮れにベンチャー・キャピタリストの中井裕正に投資を依頼した件のこと。あれから半年がたつというのに,当の中井からは何の音沙汰もなく佐藤はすっかりあきらめていた。しかし,プロデュースの社運を懸けた開発は中断できない。頭を痛める佐藤に,1本の電話が入った。
「しばらくです,佐藤さん」
 聞き覚えのある声だった。
「中井さん,ですね」
「ええ,ごぶさたしております」
「もう,お電話いただけないかと思ってました」
「あれからいろいろ調べさせてもらいましてね。で,プロデュースさんは・・・」
 中井は淡々とプロデュースの技術の独自性や会社としての将来性,セラミックス・コンデンサ関連装置の市場性などについての綿密な調査結果を説明し始めた。話に聞き入る佐藤。中井の長い説明が終わるころには,裁判長から判決を言い渡されるような心境になっていた。