日経ものづくり 特報

シミュレーションで
アイデアを引き出す

CAEとは違った局面でツールが生きる



「デジタイヤ」は,シミュレーションの存在を多くの消費者に知らしめた代表格。住友ゴム工業(SRI)グループが開発した「DRS(デジタル・ローリング・シミュレーション)」という技術を適用したタイヤの製品群だ。DRSとは,自動車が走行している状態でのタイヤの状況をシミュレーションする技術。技術者のアイデアを引き出すために利用する。実験/試作代わりのCAEとは違った観点からのシミュレーション活用が,こうしたデジタイヤの商品性向上に大きく貢献している。

 1998年以来住友ゴム工業(SRI)グループが開発している走行シミュレーション技術「DRS(デジタル・ローリング・シミュレーション)」。それまで,走行時,特に高速で走っているときに,タイヤがどのような状態になっているかは,解析はもちろんのこと実験でも分からなかった。このため,静止状態での解析や実験などに基づいて,タイヤを設計せざるを得なかった。DRSは,走行時の接地形状や接地圧,摩耗エネルギなどを解析で明らかにするもの。SRIグループのタイヤ開発に大きな影響を与え続けている。
 DRSで開発されたタイヤを「デジタイヤ」と呼ぶ。デジタイヤシリーズは,累計で6000万本以上が出荷されてきた。2006年1月に発売した新商品「LE MANS LM703」では,タイヤ内部の空気の振動を抑制するために「特殊吸音スポンジ」を内蔵。タイヤ空洞中の空気が共鳴して発生する「空洞共鳴音」を大幅に低減した。
 新製品開発に欠かせなくなってきたDRS。その活用シーンについて「シミュレーションといえばCAEを連想すると思うが,CAEとはシミュレーションを使用するタイミングが異なっている」とSRI研究開発(本社神戸市)情報研究部課長の白石正貴氏は語る*1。CAEでは一般的に,試作や実験の代わりにシミュレーションを利用する。DRSが異なるのは試作や実験の代替手段ではないこと。主に設計者のアイデアを引き出すために活用されているのだ。

見えない現象を「見える化」
 アイデアを引き出すためのシミュレーションの活用法を,「CAR(Computer Aided Research)」とSRIグループでは呼んでいる(図)。CAEとCAR。シミュレーションを利用するという点では両者とも同じだが,その目的の違いについて白石氏はこう説明する。「CAEは,開発期間短縮や開発コストの削減を主な目的としている。一方でCARは,現象のメカニズム解明,新技術創出を目的とするものだ」。
 CAEは,試作や実験の代わりに行うのだから,シミュレーションによって評価する項目はおおよそ明らかになっている。評価項目が想定している数値の中に収まっていれば合格だし,収まっていなければ不合格。乱暴にいってしまえば,「OK,NGを判断するのがCAE」(白石氏)。

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図●シミュレーションの活用の場を広げるCAR
試作や実験の代わりにシミュレーションを利用するのがCAE。一方,現象のメカニズム解明,新技術創出を目的として,実験などでは観測しづらい物理現象の視覚化などにシミュレーションを利用するのがCAR。