日経ものづくり 直言

デジタル家電に見る
豊作貧乏の罠

神戸大学 教授
延岡 健太郎


 好景気を迎え,日本の製造業は調子がいい。ただしデジタル家電を中心とした電機産業には,苦悩している企業が多い。過去30年間にわたり,一部の部品企業を除いて,電機産業は継続してもうからなくなってきている。
 日本のデジタル家電はものづくりに問題があるのだろうか。そんなことはない。DVDプレーヤー/レコーダー,薄型テレビ(液晶とPDP),デジタルカメラなど,先端を行く新商品の多くは日本発だ。世界に先駆けて素晴らしい商品を次々と世の中に送り出している。それにもかかわらず,なかなか利益に結び付かない。
 大きな量販店に行けば,すぐに納得できる。同じような商品があふれているからだ。これでは値段が急速に下がり,利益を上げるのは難しい。デジタルカメラや薄型テレビにしても,すべて日本の技術に支えられた素晴らしい商品だが,メーカーは「豊作貧乏」になっているのだ。
 豊作貧乏の始まりは1997年に導入されたDVDプレーヤーであった。2兆円を超える莫大な利益をもたらした1980年代のVTRとは対照的に,1990年代のDVDプレーヤーは急速な価格低下のために全く利益には結び付かなかった。その後も,日本発の優れたデジタル家電商品が次々に導入されているが,ことごとく大きな利益に結び付くことなく終わった。

日経ものづくり 直言
延岡 健太郎
1981年マツダ入社。1994年神戸大学助教授,1999年から現職。2001年から経済産業研究所ファカルティフェロー兼任。経営学博士(MIT)。