「不確定性原理」に代表される量子力学の不思議な性質を利用して,安全に鍵データを配送する技術が量子暗号である。3回目の今回は,前回紹介した「BB84」とは別の量子の性質「量子絡み合い」を使った量子暗号「E91」の原理を説明する。 (山田 剛良=本誌)

石井 茂
日経BP社 主任編集委員

 絶対安全な暗号として現在,活発な研究開発が進む「量子暗号」は,言葉のイメージとは異なり,任意のデータを暗号化する手法ではなく,暗号の「鍵」を安全に送る「鍵配送」の手法(プロトコル)である。量子暗号のシステムでは,量子の性質を利用して鍵を配送し,既に知られている暗号アルゴリズムを使ってデータを暗号化して送る。

 「絶対安全」の根拠は,鍵の配送の際に,いったん測定すると元の状態を再現できないという量子の性質を利用していること。このおかげで,仮に盗聴が行われても受信側で必ず検知できる。つまり,盗聴不可能な状態で鍵データを送受信者間で配送できる点にある。こうした形で安全に暗号鍵を共有できれば,理論的に解読が不可能な暗号化が可能であるのは以前から知られていた。