世界を獲る「多品種大量」

第1部:激変は前提
絶え間ない製品投入は必至
設計資産の構築で生き抜く

 過去5年間,エレクトロニクス業界では,それまでの長い歴史を踏まえても想定しにくい出来事が次々と起こった。予想を大幅に超える速度で進展した価格下落,シェア上位のメーカー以外は利益を出しにくい「独り勝ち」現象,韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.をはじめとするアジア企業の興隆,米Apple Computer,Inc.の携帯型音楽プレーヤーや音楽配信事業への参入,検索エンジン・ベンダーだった米Google Inc.による映像配信事業の参入——。同業者だけでなく他分野の企業も瞬時にライバルと化す「異種格闘技戦」のような時代に突入したことで,将来動向を確信を持って見通すことは至難の業になった。

第2部:ソフトウエア編
プロダクトラインで10倍の格差
ソフト工学にビジネスの視点を

 多量の製品を矢継ぎ早に投入していくマシンガン体制の構築では,ソフトウエアの戦略的な再利用がカギを握る。それは単なるソース・コードの流用ではない。モデルや検証環境など開発サイクルにおけるさまざまな成果物を組織的に活用する体系的な再利用を行ってこそ,その真価を発揮できるからだ。こうしたソフトウエアの開発体制の実現は,これまでは個々のメーカーが手探りで進めざるを得なかった。ところが,最近になってこうした状況に変化が訪れている。

第3部:ハードウエア編
長期展望の設計思想で
世界同時立ち上げを実現

 第2部で見たようなソフトウエアの再利用体制はハードウエアの開発体制と密接に結び付いて初めて意味を持つ。両者が連携したマシンガン体制が構築できたとき,最初に見える目標は,新製品を全世界で同時に売り出す「世界同時立ち上げ」である。
 既に着手している企業はある。フィンランドNokia Corp.や韓国Samsung Electronics Co,Ltd.,キヤノン,松下電器産業などである。こうしたメーカーはいずれも数年前から戦略的にマシンガン体制をつくり上げてきた。

第4部:社外リソース
開発・製造受託企業を
マンツーマンで使いこなす

 大手エレクトロニクス・メーカーでは,設計資産の再利用による開発効率の向上が進む一方で,外部企業の力を借りる動きが活発になっている。スケジュールや要求仕様の問題で自社開発が難しい製品も市場に投入しなければ,事業機会を逸してしまう恐れがあるためだ。
 開発や製造の委託が増えていることは,台湾最大のエレクトロニクス・メーカーで,世界最大級の開発・製造受託企業であるHon Hai Precision Industry Co.,Ltd.(鴻海精密工業)の急激な成長ぶりに表れている。