日経ものづくり 事故は語る

火の手が上がるまで走り続けた列車
異常を知りながらも止められず

四国旅客鉄道(JR四国)の土讃線で,車両火災が発生した。 発電用エンジンの過回転による異常な発熱が原因。 この異常をうかがわせる“合図”は幾つも出ており,乗務員もすぐに気付く。 だが,彼らには走らせ続けるという選択肢しか残されていなかった。

 2003年8月26日,JR四国・土讃線上り,高知駅発阿波池田駅行き2両編成の車両(列車番号226D)は,午前8時20分ごろ阿波川口駅に到着した(図)。定刻からは既に約44分遅れている。すぐにでも出発したいところだが,駅では20人ほどの客がこの電車を待ちわびていた。車掌は扉を開け,乗降が終わるのを待つ。
 ここで進行方向前側の車両の乗客が騒ぎ始めた。あろうことか車両連結部近くから火の手が上がったのだ。騒ぎを知って駆け付けた車掌は,まず前側車両にいた乗客をホームに誘導する。同時に,車両前方の運転士に消火を指示した。
 そうこうしている間にも,車内には煙が立ち込めていく。危険を感じ取った車掌は,後側車両の乗客にも避難を促した。一方,運転士は車内に備え付けてあった消火器を使って,何とか火を消し止めた。
 このような車掌や運転士の迅速な行動もあって,彼らや乗客約30人にケガはなかった。しかし,車両は連結部付近を中心に床材や電気配線の皮膜が焼失した。

調速機に不具合
 出火元は床下の電源装置。V形8気筒ディーゼルエンジン「4VK-8.8」に発電機を直結したもので,エンジンの出力を使って発電し,車内の冷房に必要な電力を確保する。電源装置は,駆動用エンジンなどと一緒に進行方向前側の車両,つまり火災が発生した車両に取り付けられていた。
 出火の原因は,発電エンジンの過回転である。過回転とは,定格速度を大幅に超えてエンジンが回転することで,エンジンにさまざまな悪影響を及ぼす現象である。

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図●土讃線路線図
四国旅客鉄道(JR四国)の営業域内で多度津駅(香川県)-窪川駅(高知県)間を結ぶ。単線。全長は198.7km(営業キロ)。事故は,高知駅発阿波池田駅行き2両編成の上り226D列車で発生した。航空・鉄道事故調査委員会の資料を基に作成。