日経ものづくり 開発の鉄人

第23回 火にかけない圧力釜

「開発の鉄人」こと 多喜 義彦

高圧機器を作り続けてきた会社が,
その技術を生かして食品機械に進出する。
それも,今までになかった機械。
生の魚を入れると魚醤が出てくる。
魚のおいしさを完全に引き出した上,無塩。
日本人はもっと健康になる。


 皆さん「アンチエイジング」してますか,「デトックス」はどうですか。チャラチャラした流行語を並べて申し訳ないが,健康志向の勢いは止まらない。健康であるためには出費を惜しまない人がいっぱいいる。これはビジネスにつなげるしかないでしょう。
 うちのお客さんで,東洋高圧という会社が広島市にあってね,すごいものを作った。食品を圧縮するだけでエキスを取り出す装置だ(図)。いや,正確じゃないかな。エキスというと絞りかすが出そうなもんだけど,これはほとんど全部食べられる,または飲める。商品名は「まるごとエキス」だから,正確だということにしておこう。

絞ってしょうゆを造る
 しかも発酵を促進できる。例えば魚をこの装置に入れて圧縮すると,24時間で魚醤ができちゃう。魚醤ってあるよね。タイでナンプラー,ベトナムではニョクマム,日本でも秋田のしょっつるなんかは魚醤の一種だ。普通のしょうゆは豆から作るけど,これは魚が原料で,魚のうまみを楽しめる。
 普通は大変な時間と手間をかけて造る。ナンプラーなどは2年も発酵させるらしい。だから24時間ってのはありがたいよ。1/700の大きさの装置で同じ生産能力を出せるわけだからね。事実,中の容積が10L,本体の幅が800mmというささやかな装置でも,かなりの生産量になる。もちろん食品工業での量産用に300Lという“プラント”的な製品も用意してある。
 しかも健康に良い。圧力が腐敗微生物の増殖を抑えてくれるから,塩を加える必要がない。塩味が薄いから別種の新しい食品なのだが,魚醤の一種であることは確かだ。

日経ものづくり 開発の鉄人
図●東洋高圧が開発した「まるごとエキス」