日経オートモーティブ 連載

エンジニアのためのデザイン講座・第2回

デザイナーを活用して
開発意欲を高める

競争力のあるクルマを開発する上で、デザイナーと技術者が一緒になって議論する「ワイガヤ」は欠かせない。今号では技術者にとってのデザイナーの活用法について説明する。デザイナーと議論することで開発の方向性を明確化すること以外にもメリットは多い。

多摩美術大学教授、立命館大学客員教授
岩倉信弥


 前回は、クルマの開発で、デザイナーとエンジニアが一緒に議論する「ワイガヤ」が欠かせないことや、にもかかわらず組織の肥大化で実行しにくくなっていることを指摘した(図)。
 ワイガヤの最大の目的は、新型車の開発に関わる人々が、目的を共有することだ。これは、新型車の長所と短所を決めることでもあり、優先順位の高い部分と低い部分を確認しあうということでもある。

長所だけでは不十分
 新型車の方向性を決める時は、長所だけを出し合って議論を進めがちだ。例えば、外観はスポーティーで格好良く、エンジンは高性能で軽く、サスペンションも小型で、という具合だ。
 しかし、コンセプトメーキングの段階で優先順位を決めるのが重要としたのは、優先順位が低い項目も明確化する必要があるからだ。開発者が意気揚々と語る新型車の会議で、優先順位の低い項目を口にするのは気が引けるものだが、後々のために確認しておきたいものだ。
 単にその場の雰囲気で「エンジンの軽量化」を決めても、その決定を受けて作業をするのは現場の担当者だ。エンジン担当者は「何で他人が言い出した無理難題のために自分が徹夜しなきゃならないんだ」という気持ちを持つことになる。もし、優先順位が高いからどうしてもやって欲しいということであれば、モチベーションを持って仕事に取り組むことができるだろう。
 初代「シビック」(1972年発売)では、ボディは小型でも「いばれるクルマ」、性能面では「キビキビした走り」、機能面では「無駄は徹底的に排除する」などの開発の方向性や目標を多くの担当者間で共有できた。

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図●ホンダの「ワイガヤ」
開発に関わる部門全体がスクラムを組むように議論しあうことから、一般的にはラグビーアプローチとも呼ばれている。