日経ものづくり 特報

応用分野膨らむ
ハイドロフォーミング

プレス成形やロール成形の領域を浸食



鋼材を液圧で成形するハイドロフォーミング。その応用分野が広がっている。ステアリングコラムやバンパビームなど,従来は別の成形法で造っていた部品で採用され始めた。その目的は,従来の成形法では成し得ない精度を得ること。複雑な形状を一体成形できる上,スプリングバックが小さいといった利点を生かした。さらに製法や材料の開発も進んでいる。先進企業の事例から,ハイドロフォーミングを使いこなす秘訣に迫る。

 ハイドロフォーミングの勢力図が拡大中だ。既にプレス成形やロールフォーミングといった成形法の領域に浸食している。成形品の形状精度が高いといった利点が認められ,導入の機運が高まってきた。ハイドロフォーミングを応用した製法やハイドロフォーミングに適した材料の開発も進んでいる。
 ハイドロフォーミングは,曲げや口絞りといった予備成形を済ませた鋼管を金型に入れ,液体の圧力によって膨らませるという手法。自動車部品では,1990年代から本格的に使われ始めた。当初はサスペンション部品である前後のサブフレームが主要な対象。それ以外にピラー補強材や排気管などもあるといった程度の認識だった。

自動車部品で採用が拡大
 ところが最近では様相が異なる。部品メーカーでは,新しい分野でハイドロフォーミングを採り入れようとする動きが出てきた。
 日本精工は,ステアリングコラムの成形にハイドロフォーミングを採用した(図)。ステアリングコラムはステアリング・ホイールの動き(回転)をステアリング・ギア・ボックスに伝えるための機構。ホイールに合わせて回転する軸や,軸を保持する筒状の構造部,車両への取り付け部(ブラケット)などで構成されている。従来品では構造部とブラケットをそれぞれプレス成形した後,溶接していたが,開発品ではハイドロフォーミングで構造部とブラケットを一体成形する。
 この開発品は,2005年6月のマイナーチェンジを機にマツダの乗用車「アテンザ」で採用された。ハイドロフォーミングを使った量産品は,同社では初めて。「ひとまず実用にこぎ着けたので,今後はハイドロフォーミング品をより多くの自動車メーカーに提案する」(日本精工ステアリング技術センター副所長の長島俊幸氏)予定だ。

日経ものづくり 特報
図●日本精工のステアリングコラム
(a)がハイドロフォーミングによって主要部品を一体成形したもの,(b)が複数の部品を溶接することで一体化したもの。(a)は,マツダの「アテンザ」に採用された。