日経ものづくり 直言

教育こそ要
ものづくりの遺伝子を失うな

政策研究大学院大学 教授
橋本 久義氏 


 東洋の小さな島国=日本が世界第2位の経済力を持っていること自体,奇跡としか言いようがない事実だろう。その日本の経済力の源泉が,ものづくりの力にあることに異議を唱える人もいないだろう。
 さて,その日本のものづくりが危機にさらされている。それはBRICsの追い上げではなく,2007年問題でもなく,金融危機でもない。教育である。教育から日本の国が崩壊するのではないかと,つくづく心配だ。
 先日ぼんやりとテレビを見ていたら,小学生に株式投資を教えるという愚かな授業を取り上げていた。全く何を心得違いをしているのか!
 現在の株式投資には,株式投資本来の「投資によって産業を育てる」という意味はほとんどない。株を安いときに買い,高くなったら売る。その間の利ザヤを稼ぐ。時として,何の苦労もなく,億単位の金が稼げる。
 明らかに誤発注と分かっても,相手のミスに付け込んで取引を成立させ,「正当な商行為だから」と法外な利益を得て平然とする。「うまくやれば楽して大もうけができる」手法を,判断力もロクに身に付いていない子供に教えて,何をしようというのか。カジノで大もうけをした人がいるから,カジノのルールを教えましょうというのと同じではないか。

日経ものづくり 直言
政策研究大学院大学 教授
橋本 久義

1969年東京大学工学部精密機械工学科卒業,同年通産省入省。1994年埼玉大学教授,1997年から政策研究大学院大学教授。