「ビタミンCを維持するだけではダメ。それでは今までと同じになってしまう。やるんだったら,必ず増やさないと…」

 鮮度を「保つ」から栄養を「増やす」へ――。冷蔵庫の競争軸を変える可能性を秘めた,光でビタミンCを増やす技術を目にして,三菱電機 静岡製作所 冷蔵庫製造部の平岡利枝は興奮気味に話した。

 ビタミンCを増やす技術が載った論文を発掘したのは,同社 住環境研究開発センターの八木田清である。社内にあった膨大な資料の中から,食品総合研究所が20年以上前にまとめた論文をつい先日見つけたのだ。興奮する平岡を前に,いつも冷静沈着な八木田は口を開いた。

「ビタミンCが必ず増えるというわけではなく,条件によっては減少抑制にとどまる場合もあるようですね。家庭の冷蔵庫で再現できるかも不明です。つまり現時点では,ビタミンCを必ず増やせるとは断言できません」

 論文を見ると,確かにそうである。しかも製品化まで1年を切っており,検討を始めても間に合うかどうか…。だが,何とか実現したい。平岡は,可能性が少しでもあれば常に前向きに検討を進めてくれる八木田なら,きっとビタミンCを増やす条件を見つけてくれると考えていた。食品総合研究所という信頼できる機関のデータだったことも心強かった。