日経ものづくり 設計者のための解析入門

第1回 基本を知れば恐くない

混乱の要因は初歩的なミス
間違えやすい三つのステップ

設計者によるCAEの利用が唱えられて久しいが,依然として敷居は高いようだ。そこで,本講座では初心者がどういう間違いを犯しやすいかという「落とし穴」とその解決策を解説する。第1回は,そもそもなぜ設計上流で設計者が解析すべきなのかについて改めて考える。 (本誌)

西浦光一
積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 京都研究所 ESSプロジェクト

 3次元CADの普及とともに,CAEを導入する企業が増えている。剛性,強度,疲労破壊,熱膨張,熱応力などの機械的特性を机上で評価して,早期に設計品質を高められるからだ。設計の途中でさまざまな特性を入力して品質を評価できれば,設計を多様化させる種々のヒントも得られる。
 例えば,筆者が勤務する企業では,筆者の所属部署で独自開発した解析ツールを導入。樹脂配管の形状最適化などを実施している(図)。主に,地震などによって引き起こされる地盤変状に対し,変位負荷に耐えるにはどういう形状が望ましいかを,構造解析で評価しながら設計を進めている。

フロント・ローディングを加速
 一般に製品開発は(1)開発企画(2)設計(3)デザインレビュー(4)試作(5)実験(6)試作(7)量産試作(8)量産(9)販売―という手順で進む。実際の開発段階では(2)~(5),場合によっては(2)~(6)を複数回繰り返すことになる。
 設計に手を加えて改善しようとするなら,設計の上流側であればあるほど変更の余地が大きい。また,設計変更コストは小さくて済み,製品開発コストも抑えられる。全体設計の大枠は初期の(2)で決まってしまうため,(6)の実験で品質の不具合が判明しても,改良できる範囲は限られる。この段階で改良案の確認のために試作と実験を行うとなると多くの時間とコストが必要となる。しかも,一度で品質とコストを満足できなければ,そうした作業を何度も繰り返さなければならない。
 もし,初期段階で設計案を評価できれば,設計変更の自由度は飛躍的に増大し,それに要する時間やコストも低減できる。製品開発の初期段階にCAEを取り入れるメリットはまさにそこにある。 日経ものづくり
図●設計者による解析の例
積水化学工業では,設計者向けの構造解析ツールを自社開発し,工場の設計者が樹脂製配管の設計などに利用している。図の例では,L字形の配管の付け根付近の厚みを変えることで,質量が増えるのを抑えつつ必要な強度を確保した。