「ようやく念願の小松菜の栽培ができるぞ」——。今から30年ほど前,初代「ウォークマン」が発売されるとともに,インベーダー・ゲームが大流行していた1979年。東京都江東区の米倉庫の一角にあった食品総合研究所が,茨城県の筑波研究学園都市に移転した。同研究所 園芸第2研究室(当時)の細田浩は,研究所が広大な敷地に移ることで,野菜を栽培する場所を確保できるとほくそ笑んだ。

 細田が取り組んでいたのは,収穫後の野菜に光を当てて品質を保つ研究である。野菜は収穫後も生理的な代謝が活発なため,呼吸作用や蒸散作用などによる品質劣化が早い。そのため,冷蔵することで野菜の生理変化を抑制するのが常識だった。これに対して細田は,野菜の機能を抑制するのではなく,利用することで品質を保てるのではないか,と考えていた。