日経ものづくり 開発の鉄人

第19回 高くたって,安くつく

「開発の鉄人」こと 多喜 義彦

食事を作り,介護施設や自宅に配るサービス。
この世界に進出した企業が,
なぜか「ものづくり」を始めた。
チタンの表面を酸化チタンでコーティングし,
トレーを造る。
水洗いだけで済むので洗浄機も洗剤もなし。
樹脂製のトレーと違って半永久的に使え,
結果としてコストが下がる。
高齢化が進めば大変な市場になるはずだ。


 これからの時代は介護だ。そりゃそうだよ。高齢化時代なんだから。でも「これからの時代は介護だ」って叫んでいるだけでは何も始まらない。具体的に何をするべきか,考えなくちゃいけない。
 伸興サンライズという会社が松江にある。もともとは建設業だった。やっぱり公共工事が減ってきてね。新しい分野である給食に進出した。といっても,学校給食じゃなくて高齢者向けね。病院や介護施設のような事業所にも配るし,一人暮らしの老人には宅配もする。
 うまくいってるんだよ。栄養士さんが指導してね,600kcal前後,塩分を3g程度に抑え,1食当たり150gの野菜を使う。発芽玄米を使ったりして健康に良い(図)。東京にあったら毎日お願いしたいくらいだよ。それに将来性があるよね。高齢者は人口そのものが急増するんだから,市場がこれから広がることは約束されている。
 ところが一つ問題があった。食事を載せるトレーだ。できるだけ短い時間で多くの施設やお宅を巡回したい。そのためには配膳の能率だって上げたいから,食器を一つずつ配るわけにいかない。で,トレーを使う。ちょっと情感に欠けるけど,料亭じゃないんだからね。何しろ1食600円とか700円で済まさなくちゃいけないんだ。条件を満たす人には,市から補助金を出してもらう。

トレー,ボロボロです
 このトレーに不満があった。市販のトレーは樹脂製なんだけど,これが全然持たない。1年も使うと表面がざらざらに荒れて,何だか衛生的でない感じになっちゃう。しょうがないんだけどね。毎日毎日自動洗浄器にかけるし,樹脂なんだから。

日経ものづくり 開発の鉄人
図●ある日の献立
フキご飯,揚げ豆腐のあんかけ,チンゲン菜ソテー,かき玉汁,ジャガ芋の煮物,リンゴ。トレーは樹脂製。