日経ものづくり アイデアコーナー

プッシュボタン式無段階リクライナ 【富士機工】

テーパ付きの軸で2段遊星歯車を移動

 自動車用シートの座面と背もたれの角度を調整するリクライナは,座面の横にあるレバーを上に持ち上げるとロックが解除される方式が一般的だ。レバーを持ち上げる動作は自然と,体を後方に倒す動きになる場合があるため,ロックを解除する際に背もたれに体重をあずける加減が難しい。
 そこで富士機工は,プッシュボタン式の無段階リクライナを考案した(図)。ロックを解除するには,ヒンジ部の軸方向にボタンを押せばよいため,体を倒す動きとは無関係となり操作性が向上する。また,従来の機構よりも部品点数が少なくて済むという利点も得られた。
 考案したリクライナは,遊星歯車機構に似た構造になっている。ただし,太陽歯車(外歯車)に相当する位置には歯車ではなく,テーパ付きの棒状部品を配置した。
 棒状部品の細い側の先端には操作ボタンを取り付け,軸方向に動かせるようにカバーで支持する。また,操作ボタンとカバーの間に圧縮ばねを配置し,ボタンを押す方向とは逆向きに力を加えている。

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図●プッシュボタン式無段階リクライナ
操作ボタンを押すとロックが解除される仕組みになっており,任意の位置で固定できる。


座る際に動かないキッチン用チェア 【TOTO】

荷重に応じてブレーキを徐々に解除

 キャスター付きのイスは座ったまま移動できるために便利だが,座面が高いと,座ろうとした際に後方へ逃げてしまう場合がある。利用者の大腿部がイスに接触した際,水平方向の荷重がイスに加わるためだ。
 特にキッチン用チェアでは座面を高く設定する場合が多く,この問題が発生しやすい。また,両手が塞がっていたり,汚れていたりするため,手で座面を押さえることも難しい。
 そこでTOTOは,荷重がないときにはロックがかかり,一定の荷重が加わるとロックが解除されるキャスターを開発した(図)。着座が完了するまではイスが動かないため,着座時にイスが後方へ逃げることなない。
 キャスターを構成する部品は大きく,座面とともに上下動する部品群と,上下動しない部品群の二つに分かれる。これらの間に,コイルばねを挟み込む。
 上下動する部品は車輪と車軸,軸受の三つ。車輪の内面(接地面の逆側)には全周にわたって凹凸が付いている。
 一方,上下動しない部品としては,イスの脚に挿し込む接合部,キャスター本体,キャスター本体の両脇に取り付けた円弧状のブレーキがある。ばねは,キャスター本体と軸受の間に配置した。
 荷重がないときには,ばねによってキャスター本体が上側に押し付けられる。キャスター本体に取り付けてあるブレーキが,車輪の内面の突起に押し付けられている状態だ。つまり,ブレーキと突起の摩擦によって車輪は回転できない。
 座面に荷重が加わると,ばねの力と釣り合う位置までキャスター本体が下側に動く。すると,ブレーキが車輪から離れていき,着座が完了するとキャスターのロックが解除される。着座後は自由に移動できる。

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図●座面が高くても座りやすいキッチン用チェア
通常はキャスターがロック状態で,着座が完了するとロックが解除される仕組みのため,座ろうとした際にも後方へ逃げない。