多くのエレクトロニクス技術者にとって今,研究開発の動向が最も気になる会社——。それがキヤノンである。その理由は,技術の独自性にこだわる同社の姿勢と,その独自技術がうかがわせる潜在能力の高さにありそうだ。

 例えば,キヤノンがはぐくみ1999年から東芝と共同開発を進めてきたSEDパネルが,市場投入を目前に控えて,映像の表現能力の高さからテレビ用ディスプレイの「台風の目」となっている。同パネルは,多くのメーカーが開発にしのぎを削るFEDパネルの中でも,独自の電子放出源を備える。約20年前,開発を進めていた幾つかの電子放出源から,当時は他社が見向きもしなかった現在の方式に絞った大きな理由は「誰もやっていないから」。これこそが「キヤノンらしさ」であり,他方式とは一線を画すディスプレイ技術につながった。

 そのキヤノンが,2006年10月26日~28日に5年ぶりの内覧会「Canon EXPO 2005」を東京都内で開催した。ここで浮き彫りになったのは,SEDパネルに限らず,独自性にこだわって開発してきたさまざまな技術の実用化が秒読み段階に入り,一気に事業の分野を拡大しようとしていることだ。キーノート・スピーチで同社 代表取締役社長の御手洗冨士夫氏は「2006年以降は,これまで蓄えた体力を使って新たな価値の創造へ踏み出す」と宣言した。実際,売上高に占める新製品の比率はここ4年間で急増している。2000年の44.1%から,2004年には64.8%になった。今後,これをさらに拡大していこうというのである。