日経ものづくり 特報

安全設計の道標
「R-Map」手法

リスクを定量評価し,許容レベルに低減

日経ものづくり 特報

松本浩二
日本科学技術連盟 R-Map実践研究会 主査,東芝医用システムエンジニアリング コンサルティング室 参与

製品の安全設計は永遠の課題である。これを効率良く実現するには,リスクを正しく評価し最適な対策を講じる必要がある。その際に打って付けのツールが最近開発された。「R-Map」と呼ぶリスク評価手法がそれだ。2004年3月に発生した六本木・回転ドア死亡事故を例に,開発者にR-Mapの概要を解説してもらう。(本誌)

 いまだ記憶に新しい「六本木・回転ドア死亡事故」。発生したのは2004年3月26日の午前11時半ごろ,場所は東京・六本木にある「六本木ヒルズ」だった。2階正面入り口に設置されていた大型自動回転ドアで,6歳の男子が頭部を挟まれ尊い命を落としたのである。
 事故当日の報道によると,この自動回転ドアは,直径が4.83mで,内部を2分するガラス扉が筒状の固定枠の中を半時計回りの方向に動く大型タイプ(図)。回転速度は調整可能で,事故当時は最速の3.2回転/分,周速度に換算すると80cm/sに設定されていた。事故発生直後,母親と周囲に居合わせた人が自動回転ドアを逆方向に動かして男子を救出したが,頭蓋骨内を損傷しほぼ即死状態だったという。
 当時,自動回転ドアには建築基準法などによる公の安全基準はなく,その安全対策はメーカー側の自主判断に大きく依存していたが,未然に事故を防止することはできなかったのだろうか。筆者は「防止可能」と考える。設計段階で自動回転ドアのリスクをきちんと評価し,社会的に受け入れ可能なリスクに低減しておけば,こんな悲しい事故は起きなかったはずだ。
 日本科学技術連盟(日科技連)のR-Map実践研究会は,リスクの評価やリスクの低減に有効なツール「R-Map(Risk-Map)」を開発,既に医療機器などさまざまな製品の安全設計に活用している。そのR-Mapについて,自動回転ドアを例に解説する。

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図●東京・六本木で死亡事故が発生した自動回転ドアの構造
当時6歳の男子が,筒状の固定枠と内部を2分するガラス扉に挟まれ死亡した。