自治体の企画にもマーケティングは必須

 杉浦氏はヘルスケアの事業者が「しゃべりすぎている」と指摘した。自身が自治体の担当者にヘルスケアのプログラムを売り込むとき、同氏は持参した厚い資料の束を開かないという。2本の杖を使ったポールウォーキングをその場でしてみせ、「これなら4足歩行と同じことだから転ばない。少ない指導者で安全に、みんなでウォーキングでき、そこからワクワクするような生活が始まる」と簡潔に語ることで受注を伸ばしてきたとする。「あれもできる、これもできると言わないで、シンプルに分かりやすく」が人の興味を引くコツだと語った。

コーチズ代表取締役の杉浦伸郎氏
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 杉浦氏はヘルスケアプログラムで使うツールなどに関しても「驚くほどシンプルで分かりやすいインターフェース」を重視している。参加者に活動量計を配布するが「確認するのは歩数と速歩時間だけ。トータルの歩数と、中強度運動を測る速歩時間は大切だが、それだけ見れば十分、効果的なフィットネスができる」(同氏)。

 続いて、民間事業者の視点から、効果的なマーケティングの必要性を西根氏や大川氏が語った。西根氏は「厚生労働省の健康づくり運動『健康日本21』に携わったとき、厚労省に主なターゲットを尋ねると、『全国民』との返答だった。『ターゲットをしぼるなんて、できない』と。それは誤解で、ターゲティングとはターゲットをしぼることではなく、優先順位をつけることだ」とし、官公庁や自治体の企画であってもターゲティングは必要だと説いた。

 「マーケティングの考え方に制御焦点理論というものがあるが、例えば、病気になりたくない(=損失回避)人と、健康になりたい(=利益接近)人ではアプローチを変える必要がある。損失を回避したい層には『強い義務』を、利益に接近したい層には『強い理想』を提供する文脈が必要だ」(西根氏)。