筆者らが若かりし頃、「サイバーパンク」というジャンルのSF小説がはやりました。人間の脳が埋め込みインタフェースを介して電脳空間(=サイバースペース)に直接接続される、という世界観の原点といえるもので、その後の『攻殻機動隊』や『マトリックス』といった作品につながります。さて現実の世界では、フィクションの世界からは俄然(がぜん)地味になりますが、集積回路技術を中心にしたマイクロデバイスを生体の中で動かして、バイオセンシングやヒューマンインタフェースに利用しよう、という研究が地道に進められています。本稿では機会をいただいて、私たちのちょっと「サイバー」な研究を紹介したいと思います。しばしお付き合いのほど、よろしくお願いします。あ、でも、アナーキーな要素は皆無なので、「パンク」ではありません。
まずは図1の、埋め込み型脳イメージングデバイスと、撮像例をご覧ください。研究室ではこの研究テーマを、「in vivoイメージング」と呼んでいます(「in vivo」とは、「生体内で」「生きたままで」という意味です)。私たちの研究は、こんなふうに、独自開発のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)チップを生体組織などのターゲットに直接接触させて利用するというスタイルを特徴としています。図1のイメージングデバイスには、私たちが開発したCMOSイメージセンサのほか、蛍光励起や撮像用のLED(Light Emitting Diode)、蛍光計測のためのフィルタなどが組み込まれています。撮像例の左側は、後述する電位感受性色素を使って観察したマウス脳表での神経活動の様子、右側は散乱光で計測したラット脳表での血流イメージです。