2014年3月、広域SDNの研究開発プロジェクト「O3」が最初の成果を報告した。ユーザーの指向に合わせて迅速に最適なネットワークサービスを提供する統合基盤を目指す。同プロジェクトの中心人物であるNECの岩田所長代理が2回に分けて解説する。(本誌)

 クラウドサービスの拡大により、ネットワークを利用するアプリケーションが増加の一途をたどっている。しかもスマートフォンの普及とともにその利用者数も急増。サービスに対するニーズは多様化している。クラウドサービスを提供するデータセンターでは、サービスが変化するスピードに合わせて、ネットワークの構築や変更に要する時間をいかに短縮するかが急務となっている。

 さらに今後、企業のBCP(事業継続計画)基盤の強化やグローバル化が加速し、世界中に分散するデータセンターとユーザーの連携が必要になる。これらをつなぐ広域ネットワークにおいても、ユーザーに対するサービス品質を保証しつつ、サービス提供のリードタイムを短縮するというニーズが出てくるだろう。

 そこでデータセンター内あるいはデータセンター間のネットワークを対象としてSDNを導入し、構築や変更を柔軟かつ迅速化しようとする機運が高まっている。SDNの標準化団体であるONF (Open Networking Foundation)はOptical Transport WG(Working Group)とWireless & Mobile WGを2013年に立ち上げ、広域ネットワークにSDNを適用するための標準化作業を始めている。加えてCarrier Grade SDN Discussion Groupと呼ぶWGの準備委員会も活動を開始した。

SDN=Software Defined Networking。ソフトウエアによりネットワークの機能や構成を定義・制御することが可能な技術あるいはネットワークの総称。

迅速な提供とコスト最適化が課題

 広域ネットワークは、光や無線など様々な種類のネットワークにまたがる通信サービスで構成される。従来は、サービスごとに異なる要件(性能、プロトコル、処理など)を満たした個別のネットワークを設計・構築するというものだった。これがサービスの迅速な提供開始を阻んでいた(図1)。

図1 広域ネットワークの課題 
異なるサービス要件を満たす各種ネットワークを個別に設計・構築する必要があるため、迅速にサービスを開始することが困難だった。
[画像のクリックで拡大表示]

 また既存の広域ネットワークでは、ネットワークの種別(レイヤー)ごとに専用の装置が存在し、それぞれのレイヤーで個別に運用管理している。このため、下位レイヤーで障害が発生した場合、上位レイヤーの運用管理者が障害箇所を素早く特定し、対処することが困難だった。ネットワーク資源もサービスごとに割り当てるため、全レイヤーを通じて低コスト・高性能となる資源の組み合わせを見つけることが難しく、全体コスト最適化の壁となっていた。