本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第118巻第1156号(2015年3月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

[1]はじめに

 2007年に始まった機械遺産の認定は2014年度で合計69件。うち“100歳超え”は28件ある。ここでは現在も動くアミューズメント機械『からくり人形「弓曳き童子」』と「としまえん カルーセルエルドラド」、戦後工業教育に生かされた「門形平削り盤―赤羽工作分局製―」、日本機械学会創設者井口在屋(いのくち・ありや)ゆかりの「ゐのくち式渦巻ポンプ」を紹介しよう。

[2]からくり人形「弓曳き童子」

 田中久重(からくり儀右衛門、1799~1881)作の「弓曳き童子」は、江戸期からくり人形の到達点に並ぶものである。台に座った童子が右手で矢台から矢を抜き、弓につがえて矢を射る。首をかしげて的を狙う仕草や、命中後にあごを上げて得意げな表情を見せるなど細やかな動作を行う。製作は1820年代、高さは約52cm。

 幕末に佐賀藩近代化に尽力した久重は、明治に上京し機械工場を営み、産業革命に貢献。その流れは現在の東芝へと続く。この人形は幕末期日本の機械技術の高さを示し、その職人技術と精神は日本の近代化の下地となった。現在は久重生誕の地、久留米市で「195歳を超えた子ども」として“永遠の命”を与えられている。