モバイル機器の電源回路にとって、バッテリー駆動時間と熱対策は極めて重要な設計課題だ。モバイル機器のハードウエア性能とソフトウエア性能のいずれも高まっているからだ。いまや、ウエブブラウザー機能や高解像度カメラ、大型の高精細ディスプレー、高速プロセッサー、第4世代(4G)通信機能などの搭載は当たり前だ。

 これに伴って、電圧レギュレーターに求められるピーク電力需要が増加している。さらに最新のモバイル機器では、複数のプロセスを同時に処理することも一般的である。この結果、負荷電流が急増しており、電源回路の電気特性と熱特性に対する要求がさらに厳しくなってきた。

 こうした中で、バッテリー駆動時間を延ばすためにさまざまな対応策が登場している。例えば、スマートフォンやタブレット端末に必要な電源機能を1チップに集積したパワーマネジメントICを製品化済みだ。しかしそれでも、モバイル機能が進化するたびに、ディスクリートタイプの電源ICを開発する必要性が生まれる。こうした、1つの役割に特化したディスクリート品は、パワーマネジメント機能の性能向上とモバイル機器の電力効率の最大化に大きく寄与するからだ。

 本稿ではまず、モバイル機器の電力効率を高める際の課題を検討する。その後、新しい昇降圧型DC-DCコンバーターを採用することで、Liイオン2次電池やLiポリマー2次電池の駆動時間を延ばし、電力損失や発熱を低減する方法を示す。

LDOレギュレーターへの入力電圧を一定に

 昇降圧型DC-DCコンバーターを有効に活用すれば、モバイル機器全体の電力効率の向上とバッテリー駆動時間の延長を達成できる。特に、モバイル機器向けパワーマネジメントICに集積したLDOレギュレーターのプリレギュレーターとして、昇降圧型DC-DCコンバーターを使った場合にその効果は顕著だ。

 モバイル機器向けパワーマネジメントICは、BluetoothやSDメモリーカード、RFトランシーバーなどのサブシステムに電力を供給する用途に向けて、LDOレギュレーターを最大で30個程度集積している。出力電圧範囲は1.2~3.3Vである。モバイル機器で使うLiイオン2次電池の場合、バッテリー電圧(VBAT)はほとんどの期間、3.7Vで維持される。しかし、入力電圧や負荷電圧の動的な過渡変動が発生すると、バッテリー電圧は2~4.35Vの範囲で変動する。

 ここでの問題は、LDOレギュレーターでのドロップアウト電圧(入出力電圧差)が過大な効率低下を招き、入力電圧変動が発生すると負荷(サブシステム)への電力供給が一時的に停止する危険性があることだ。この問題は、LDOレギュレーターへの入力電圧を一定値に、例えば3.3Vに安定化させることで解決可能だ。それによって、大きな過渡変動が発生した場合の動作予測が容易になり、LDOレギュレーターを使った電源設計が簡単になる。

 ただし最大のメリットは、すべてのLDOレギュレーターのヘッドルームとドロップアウト電圧を削減できる点にある。実際のところ、変換効率の向上によるメリットがかなり大きい。さらに、パワーマネジメントIC内での電力損失が減るため、熱に対する要件が緩和される。加えて、ICダイの温度と、集積したすべてのMOSFETのオン抵抗を低減できる。