出典:『稼ぐビッグデータ・IoT技術 徹底解説』の第2章 先進事例(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 カーナビや乗換案内アプリは移動時にルートを選び、出発すべき時刻を知るツールとして広く利用されるようになった。最近はICT技術の進歩によって実際の車の走行状態から推定した道路混雑状況をリアルタイムに配信することが可能になり、実際の混雑に即した、より正確なルート案内を行うシステムも提供されている。個々の車両や乗客の移動等の流動データをリアルタイムに収集し、人の流れを最適化するコンセプトをスマートモビリティーと呼ぶ。本稿では、日立がスマートモビリティーを目指して以前から開発してきたプローブカーのデータを用いた渋滞予測技術や経路の最適化技術、スマートフォン・プローブ・データによる移動手段推定技術、鉄道流動データを用いた人流のシミュレーション技術等を紹介する。

1 スマートモビリティーのコンセプト

 生活や仕事の中で、移動は大きな役割を持つ。通勤・通学、買物、通院や物の運搬等、移動なしでそれらは成り立たない。道路が縦横に走り、事故や災害等がなければ渋滞も輸送障害も発生せずスムーズな移動が可能になるが、現実には通勤時間帯の日常的な渋滞や混雑、あるいは事故等による渋滞や混雑が発生する。

 渋滞や混雑が発生するのは、単純には需要に対して供給が不足しているためである。供給とは輸送量、あるいは時間当たりの流量に相当する。例えば道路の幅を広げる、交差点を減らす、列車やバスのダイヤをより過密にする、新線を設ける等の施策によって供給を増やすことができる。一方の需要は、ある時間にA地点からB地点まで移動しようとする車両や人の量に相当する。これに対しては、時差通勤を奨励したり、ピーク時間帯に通常よりも高い通行料金を取ったりするなどの施策で、ピーク時間帯の需要を変えることができる。

 ICT技術の発達によって、車両や乗客の流動の状況をさまざまなセンサーを用いてリアルタイムに取得することが可能になってきた。この流動データを分析し、どこで渋滞や混雑が発生するのかを事前に予測することにより、一時的に列車の運転本数を増やしたり、信号の間隔を変えて流れをスムーズにしたりすることで供給量を増やす(供給の制御)、あるいは渋滞や混雑の情報を流して移動することを取りやめたり遅らせたり、ダイナミックに有料道路の通行料を変えたりすることで需要を減らす(需要の制御)、さらには移動中の運転手や乗客に適宜、渋滞や遅延の情報を伝えて最適な経路(迂回路)を選択するように誘導する(行動の制御)、といった最適化が可能になる(図1)。日立は、前記3つの制御によって流動を最適化するスマートモビリティーのコンセプトを提案している1)。本稿では、このスマートモビリティー実現に向けた取り組みを紹介する。

図1 データを収集して分析し予測する
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