本記事は、日経WinPC2010年8月号に掲載した連載「CPU今昔物語」を再掲したものです。社名や肩書などは掲載時のものです。

 IntelとMotorolaのCPUは、ことあるごとに比較され、優劣が議論されるなどよきライバル関係が続いた。その皮切りとなったのが、今回取り上げる「8080」と「MC6800」だ。

マイコン時代を切り開いたIntelの8ビットCPU「8080」
データバス幅は8ビット、アドレスバス幅は16ビット。汎用レジスターを8ビットレジスターまたは16ビットレジスターとして利用できる。4004や8008と異なり、それぞれのバスは独立しているので外部に必要なICの数が少なくなっている。
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8080のダイ
左上の隅にIntelのロゴと「8080A」という名称が刻まれている。左下の隅に回路とは独立して模様が配置されている。これが設計者である嶋正利氏が入れたという家紋と見られる。
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 Intelの8080は、電卓向けに開発された4004や、キャラクターベースの端末向けに開発された8008と異なり、当初から汎用の“コンピューター”としての利用を想定して設計された。当時のコンピューターの主たる用途と言えば、企業システムにおけるEDP(電子データ処理)である。給与計算や在庫管理などの業務を電子化したものだ。そのためにまず、メモリー空間を8008の16KBから、16ビットアドレッシングによる64KBに拡張した。この時期に各社から相次ぎ登場したCPUの多くは64KBに対応していたが、アドレスバスのピン数が16個あるCPUは意外に少ない。例えばRCAの「COSMAC(CDP-1802)」はアドレスバスを2重化して使っているため、ピン数は8個だった。Fairchild Semiconductorの「F-8」はもっと特殊で、1KBのROMを内蔵するファミリーチップを最大64個までつなぐ形で64KBのアドレス空間に対応した。

 National Semiconductorの「SC/MP」に至っては、アドレスバスを12ビット(4KB相当)しか用意していなかった。これらのCPUは、汎用のコンピューターよりも、機器制御向けの用途を重視し、少ないチップ構成でシステムを実現できるよう配慮していたのである。

8080のブロック図
大きく演算部とレジスター、命令デコーダーに分かれており、CPUとしてはごく基本的な構造である。これに制御関連のブロックが加わっている。
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