前回まで、ノルウェーやオランダにおけるEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)の普及事例を通じて、購入補助金や税控除のほか、優先レーン通行許可などの持続可能な普及施策と、街中や高速道路沿いの公共充電インフラの整備が重要であることを述べた。今回は、特に充電インフラに注目してみたい。EVの普及に向けた課題として、「自動車が先か、充電器が先か」という、いわゆる「鶏と卵」の問題だ。

 EVがなければ街中に充電器を置いても使われない一方、充電器がなければ、消費者はEVを購入したがらない。これはEVの普及を目指している関係者にとって非常に悩ましい問題だ。Global Smart Grid Federation(GSGF)の白書では、この長年のジレンマに関する議論について、「充電インフラを先に普及させるべき」と結論づけたのだ。ここでは、この結論を後押しした日本の事例を紹介しよう。

 2006年から2009年にかけて3年間、東京電力では業務用EVを用いた実証試験を実施した。急速充電器を狭いエリアに多数設置し、設置前と設置後でそれぞれEVの走行パターンを観察したところ、驚くべき変化が現れた。それまで月間200km程度だったEVの平均走行距離が、大幅に伸びたのだ。その距離、なんと1500km。これは、それまで補助的にしか使われなかったEVが、営業や巡回の本格的な足として使われるようになったことを示している。

急速充電器増設前のEV利用
提供:東京電力
[画像のクリックで拡大表示]
急速充電器増設後のEV利用
提供:東京電力
[画像のクリックで拡大表示]