数万円で買えるカメラも

 ミドルクラスの赤外線センサーモジュールのうち、640×480素子や320×240素子のミドルハイエンド品を使って、人や動物が発する赤外線の放射輝度の分布をモノクロ表示するのが「サーマルカメラ」だ。ナイトビジョンはサーマルカメラの一種である(図5)。

図5 夜間走行時に人や動物を検知
クルマの前方部に取り付ける車載用のカメラ(a)。カメラで撮影した遠赤外線画像をダッシュボードなどの専用ディスプレーに表示して、運転者の視覚を補助したり注意を促したりする。(図:Autoliv社)
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 サーマルカメラの応用は、クルマ以外にも広がっている。特に安心・安全の分野に期待する声が多い。NEC電波・誘導事業部 ISRシステム室 エキスパートの小野広昭氏は「これまでは重要施設や航空機向けの需要が中心だったが、最近は街頭設置の引き合いも増えている」と説明する。安心・安全に対する社会意識の高まりから、設置済みの可視光カメラからの置き換え需要や組み合わせて使う需要が伸びているという。

 さらに新しい応用を開拓する可能性を期待されているのが、格安の赤外線カメラだ。従来は数十万円したが、数万円で購入できる製品が市場に登場した。カメラメーカーが狙うのはパーソナル用途だ(図6)。チノー常務取締役 技術開発センター長 SS開拓統括部長の清水孝雄氏は「個人でのクルマのメンテナンスや美容・健康管理、ペットの健康管理といった民生用途を見込んでいる」と言う。同社は2014年4月17日、約2000素子(48×47素子)のセンサーを用いた4万6000円(税別)の赤外線カメラを発売した(図6(a))注5)

注5)チノーのカメラに用いられているセンサー素子の基本技術は日産自動車が開発したもので、素子はラピスセミコンダクタが生産している。
図6 低価格な赤外線カメラが続々
ボタンを押すと撮影した熱画像と温度を表示するカメラ。約2000素子で価格は4万6000円(税別)(a)。スマートフォンに装着するジャケット型のカメラ。640×480素子で価格は350米ドル(b)。スマートフォンと組み合わせて使うカメラ。64素子で価格は195米ドル。(写真:(a)はチノー、(b)はFLIR Systems社、(c)はRH Workshop社)
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 スマートフォンと連動するカメラも販売中である。FLIR Systems社は2014年1月、撮影した熱画像をBluetooth経由でスマートフォンのディスプレーに表示する、ジャケット型のカメラを発表した(図6(b))。640×480素子と大型のセンサーを搭載しながらも、価格は350米ドルだ。iPhone向けを同年春、Android端末向けは同年後半に発売する予定である。米RH Workshop社も似たような機器を2013年6月に発売しており、こちらはセンサーが64素子(16×4素子)と少ないが、価格は195米ドルとさらに安価だ注6)(図6(c))。センサーで撮像した熱画像とスマートフォンの可視光カメラの画像を合成して表示する。

注6)これは完成品の価格で、構成部品をセットにした組み立てキットは160米ドルで販売されている。