締結部がボロボロになった椅子

 今回取り上げるのは、ねじを使った製品の締結部の品質トラブルです。機械要素の中でも最も基本的な部品であるねじは、中国メーカーの間で軽視される傾向にあるようです。ところが実際は、部品同士をつなぐ要の部品であり、大量に使われる部品でもあるわけですから、最大限の注意を払わなければなりません。たかが1本のねじが、顧客からの信頼を失う原因になり得るのです。

 例えば、2万円の価格で販売されていた中国メーカー製の椅子がありました。価格を抑えるためか半完成品として販売されており、購入後に顧客が部品を組み立てて椅子に仕上げる仕組みとなっています。

 その椅子を購入して組み立て始めた筆者は、あまりのひどい造りに驚きました。特に気になったのが、背もたれとアームレストの締結部です〔図1(a)〕。この締結部では、背もたれに固定されたナットに、アームレストの貫通穴を通して六角穴付きボタンボルト(以下、ボルト)をねじ込みます。ところが、貫通穴とナットの位置関係がいい加減だったのです。おまけに、コスト削減のためか、締めていくボルトの荷重を受けるアームレストは樹脂製部品となっていました〔図1(b)〕。

図1●不具合が見られた椅子
(a)アームレストを背もたれに締結する箇所に不具合が発生した。(b)適切な締結部(拡大画像)。樹脂製部品に座ぐりを加工し、そこに六角穴付きボルトを締結する。
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 大人が座る荷重に耐えなければなりませんから、ある程度の強いトルクでボルトを締める必要があります。ところが、貫通穴とナットの位置がズレており、さらにナットの軸が斜めになっていた(互いに平行ではなかった)ため、ボルトを締めていっても、その頭の底部(座面)が樹脂製部品にしっかりと接地しません。そこで、ボルトの頭が接地するまで締めようとするのですが、ボルトを受ける面は強度が低い樹脂製部品なので、少し強くボルトを締めると削れてしまいます。仕方がないので、適正トルクよりも少し小さなトルクで締結せざるを得ませんでした。

 すると、使い始めてからしばらくしてボルトが緩んでしまいました。仕方がないので、ボルトをより強く締め直します。しばらくすると再びボルトが緩み、より強く締め直す…。それを繰り返した結果が、図2(a)です。ボルトが樹脂製部品を削って中にめり込んでしまいました〔図2(b)〕。

図2●椅子の締結部の品質トラブル
(a)ホコリかゴミが詰まったように見えるのは、樹脂製部品が削られたもの。(b)締結部の断面図。ナットの向きと樹脂製部品の面方向が適切ではないため緩みやすい。そのため、より大きなトルクで増し締めすることを繰り返した結果、ボルトの底面が強く当たって樹脂製部品が削れてしまった。
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 この椅子を使い続ければ、そう遠くないうちに樹脂製部品に亀裂が入り、破損に至ることでしょう。亀裂が入ったことを知らずに座った人は、勢いよく座った際にアームレストが外れてけがをするかもしれません。ボルトが緩んだことに気づかずに使い続け、ボルトが脱落した場合も同様の危険が伴います。

 いずれにせよ、ボルトと樹脂製部品が正しく接地するようにナットの軸方向と樹脂製部品の面方向を設計または加工しなかったことが、この椅子の締結部の低品質を招いたのです。