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著者の松尾氏

 医療機器市場は3年後にグローバルで50兆円市場に成長すると推計され、その成長性は、希望的観測ではなく、かなり確実性の高いものと認識しています。また、収益性の高い企業が多く、そのため、この成長性と収益性に起因して、コングロマリッド型企業では、事業ポートフォリオ上成長ドメインに位置付けられ、異業種の企業では、新規参入領域として着目されていることは、ご案内の通りです。

医療機器業界の常識、他業界の非常識

 この後の議論の前提として、医療機器業界の二つの特性について、ご説明しておきます。一つはセグメントが細分化された市場である点です。上位を占める企業は外資であり、TOP企業で3兆円規模で、上位層の規模は拮抗している群雄割拠の業界です(「【はじめに】市場構造激変の中、企業にとって重要性が高まる医療機器市場」を参照)。

 これだけ拮抗するのは、市場が未成熟で優勝劣敗が未確定だという理由ではありません。医療機器市場とひとことで言っても、対象とする診療科、検査・診断・治療などの医療プロセス、バリューチェーンによってセグメントが細分化されているためであると推測されます。

 もう一つの業界特性は、下に示すチャートをご覧ください。医療用電子機器業界と総合電機業界のトッププレーヤーのコスト構造を示したものです。これは一つの事象に過ぎませんが、この背景には、開発・製造・販売といった機能戦略、業務のオペレーションなど、全く違うメカニズムで動いていることを意味しています。他業界から見ると直感的には非常識な業界とさえ映るほどの違いです。

医療機器メーカーと総合電機メーカーのコスト構造の比較
医療用電子機器のデータは、産業分類において医療用電子機器に区分される企業のうち、売上高上位10社についてNRIが分析した(Medtronic、Baxter、Stryker、BD、Boston Scientific、St Jude Medical、テルモ、Smiths Group、DENTSPLY)。また、総合電機のデータは、産業分類において民生用電子機器製造に区分される企業のうち、売上高上位10社について野村総合研究所が分析した(Samsung Electronics、日立製作所、パナソニック、ソニー、東芝、富士通、LG Electronics、三菱電機、日本電気、Koninklijke Philips Electronics)
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 見方を変えれば、このルールの特殊性は、業界内で活躍する企業においては常識ですが、他業界からの参入を志向される企業が多い市場環境の中においては、ある種のノウハウであり、強みとも言えます。この強みが、他業界とのパートナリングによる技術などの新規ノウハウの導入の際、またセグメントが細分化されているために業界内でのパートナリングにおいても武器になると思われます。一方で、他業界からすると、この非常識が、ある種一番大きな参入障壁とも言えます。