デジタル家電から半導体、ソフトウエアまで。多くの企業が、ユーザーの実地調査に力を入れ始めている。これまでにない「体験」をユーザーにもたらすという観点から、新しい機器やサービスのヒントを探る動きである。背景には、技術を売り物にしても製品がヒットしない現実や、ネットワーク社会の進展がある。ただし、ユーザーの観察から発想を膨らませるだけでは、消費者をとりこにする製品は作れない。斬新なアイデアをサービスや機器に余すところなく生かすには、これまでとは異なる視点が求められる。ユーザーを導くビジョンや、複数の機器をまたがるソフトウエア基盤などが重要になる。
これまで最先端の技術でしのぎを削ってきた名だたるエレクトロニクス企業が、綿密なユーザーの調査に力を入れている。パナソニックやソニーといった日本の大手企業に加えて、基本的にはエンド・ユーザー向け製品を手掛けない米Intel Corp.までが、精力的な活動で知られるようになった。同社で消費者向け製品を扱うDigital Home Groupでは、ユーザーの行動の調査を通常の開発プロセスの最上流に位置付けているほどである(図1)。このほか、米Microsoft Corp.や米IBM Corp.をはじめとする米国勢や、韓国Samsung Electronics Co., Ltd.やフィンランドNokia Corp.など、世界中の企業が同様な取り組みに力を注ぐ。
各社の動きは、電子業界全体を巻き込む変革の兆しである。技術の進歩を追い求めればユーザーの満足を得られた時代は過ぎ去りつつある。多くの企業がユーザーの行動調査に力を入れるのは、これまでの常識を見直す必要を感じているからだ(図2)。
技術から「体験」へ
多くの企業は、これまでの延長線上で技術開発を進めても、もはや製品が売れないと考えている。パソコンや携帯電話機、デジタル家電といった機器は、マイクロプロセサの性能向上や記憶装置の容量増加、受動部品の縮小や画面の拡大などが、長らく付加価値の源泉だった。部品の進化によって実現できる機能を追加したり、機器を小型/大型化したりすることで、需要を喚起してきた。もはやこの手法が通用しないことは、それぞれの分野を熾烈な価格競争が席巻することから明らかである。これらの機器は、「イノベーションのジレンマ」を提唱したClayton M. Christensen氏が指摘する、技術進歩がユーザーの要求を上回った状態にあるようだ(図2)1)。