医療安全と病院情報システムについて講演する大会長の太田吉夫氏
医療安全と病院情報システムについて講演する大会長の太田吉夫氏
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 2014年6月5~7日に岡山市(岡山県)で開催された「第18回日本医療情報学会春季学術大会」(主催:日本医療情報学会)で、大会長の太田吉夫氏(香川県立中央病院院長)が、「医療安全と病院情報システム」と題して大会長講演を行った。米国医学研究所(Institute of Medicine=IOM)が2011年に発表した医療ITと患者安全に関する報告書を紹介するとともに、過去15年間の医療安全の歩みについて述べた。

“患者安全プログラムの確立”と“安全な薬物療法の推進”

 太田氏は冒頭、「1999年は医療元年と言われることがある」とし、同年に起こったトピックスを紹介した。国内では1月に横浜の大学病院で、心臓の手術予定患者と肺の手術予定患者を取り違えて手術してしまうという医療事故が起こった。翌2月には都立病院で指の手術をした入院患者の静脈内に消毒薬ヒビテングルコネートを誤投与して死亡する事故があった。

 また、同年に米国ではIOMから「To Err is Human」(人は誰でも間違える)という報告書が発表され、米国内で年間4万4000~9万8000人の入院患者が医療事故のために死亡しているというショッキングな内容がマスコミでも取り上げられた。「このレポートは米政府に対していろいろな提言をしているが、医療現場に直接関係するものとして、“患者安全プログラムの確立”と“安全な薬物療法の推進”の二つがある。このうち前者に関しては、ドナルド・A・ノーマン著の『誰のためのデザイン?』が参考になる」(太田氏)とした。

 同書は人間中心の設計のアプローチを提示し、ヒューマンインタフェースやユーザービリティーに大きな影響を与えたもの。太田氏は、「非常にシンプルなことだが、安全性を考えたシステムの設計においては役に立つ内容が記されている」と述べ、主に次の6点のポイントを挙げた。

(1)システムの概念モデルを含め、視覚的に把握できる「見える化」が重要
(2)記憶に頼ることなく、負担を少なくする操作の簡素化
(3)押すドアには押す場所があり、ハンドルを回せば右方向に、というようなアフォーダンスとナチュラルマッピングができていること
(4)不必要なことができない仕組みであること
(5)エラーに備え、作業を逆行できること(アンドゥ機能)
(6)以上で解決できない場合は、作業、成果、レイアウトなどを標準化すること

 一方、後者の“安全な薬物療法の推進”については、処方箋の記述と処方ルールの標準化、医師によるオーダエントリーシステム、薬剤部のソフトウエアの利用、薬剤の選択と処方判断をサポートするシステム、治療現場で役に立つ患者情報を用意する(バーコードの利用)など、病院情報システムで実現できると説明した。