ニーズによって全てが変わる
本連載第1回でものづくりを「もの」と「つくり」に分けて考えた。「もの」はユーザーに与えるワクワク感をどのように構成しようかという思想だから、筆者は設計思想と呼んでいる。この設計思想が変われば製品が変わるだけではなく、重要なのはその製品を設計・製造するプロセスも変わることだ。
分かりやすくコップの例で説明しよう(図1)。コップは高級品だけが必要とされるわけではなく、紙のコップが欲しいという需要も依然としてある。コップは、液体やものを入れて運んだり飲んだりできる便利さがあり、ユーザーはそこに価値を認めてお金を出す。しかしユーザーと一口に言っても、使い捨てにしたいユーザーは紙を要求するし、高級ホテルのようなところはクリスタルグラス製の立派なものを高くても買う。
これらは、機能としては一緒だが、材料が異なることによって、価格も違うし、設計のプロセスも、「つくり」のプロセスも異なったものになる。
2000年ごろから起こったグローバリゼーションによって、電気製品をはじめとした製品の設計思想が多様化してきた、と筆者は考えている。その前は、日本人が好むものを造ればだいたい先進国の人は喜んで受け入れてくれた。つまり、日本と海外の先進国には同じものを供給すればよかった。ところがグローバリゼーションが進展するにつれてニーズが多様化し、極端にいうと200カ国あったら200カ国で全部ニーズが異なるようになった。従って、QCDFSE、つまり品質・コスト・納期・柔軟性(フレキシビリティ)・安全性(セーフティ)・環境も全部変化させなければいけないというわけだ。
日本国内では2008年のリーマンショック以降になってようやく新興国市場の重要性が注目され、それとともに市場の多様性にも気がついた。しかし、Samsung Electronics社などは、2000年前後にいち早くこの変化を認識し、着々と対応してきたのである。
重要なのは世界各地のニーズにきめ細かく対応する製品企画であって、ニーズすなわち要求機能と制約条件が変わると、設計の解もそれを支えるプロセスも変わることを認識すべきである。この点を無視して品質が良いとか、若干高いが機能が優れているとかいっても今の世界では通用しない。インドで日本の洗濯機が売れないのはサリーが洗えないからであり、中国ではジャガイモを洗えないからであるといったことは、しばしば指摘されるところである。