梅を求めるユーザーには梅を

 日本ではなかなか見られないから分かりにくいかもしれないが、Samsung Electronics社の製品は世界各地のニーズをくみ取った設計の結果として、デザインや操作性に非常に優れている。本連載第1回(2013年4月号)で紹介した欧州向けのワイングラス型テレビもその1例だ。一方で新興国向けのテレビやハードディスク・レコーダーは、余分な機能がなくリモコンもシンプル。しかもハードディスク・レコーダーとテレビ用が共通で、別々に2つ使う必要がない。

 その上で、多くの選択肢を用意するという戦略を採っている。スマートフォンだけではなく、テレビでもSamsung Electronics社は世界中で1000~1500モデルを造っている。地域性による造り分けに加えて、ユーザーはそれぞれの基準で製品を選択するのだから、選択肢(モデル数)は多い方が良いという考え方だ。逆に言えば、ものすごく種類を多く造らないと競合に勝ってこられなかったわけだ。

 ここでポイントになるのが、多種多様なユーザーニーズに合わせて、製品の品質や機能もさまざまに変わってくるということである。すなわち、「松」「竹」「梅」があるのだ。松を要求するユーザーには極めて高い品質や機能で造ればいいし、梅を求めるユーザーにはそれ相応の品質を提供すればいい(図1)。大切なことは、ユーザーに「ワクワク感」や「ドキドキ感」を与えて、買いたくなる商品に仕上げることだ。

図1●Samsung Electronics社は、ユーザーニーズによって「松竹梅」を造り分ける
日本メーカーは「松」は得意だが、「竹」「梅」に対応する仕組みがない。
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 Samsung Electronics社に限らず、海外メーカーの中には梅の下ぐらいの製品を造る一方で、松の要求にも対応できる企業が結構ある。要するに、ユーザーから求められた品質で造れるという、オールマイティな柔軟性を持っている。