ローエンド向けでも一日の長

 こうして見ると、ローエンド端末は、高性能部品を得意とする日本の部品メーカーにとっては魅力の薄い市場に思える。しかし実際にはハイエンド端末と同等か、それ以上の大きな商機が潜んでいる。

 中国地場の部品メーカーの技術力は向上しているとはいえ、内部構造や動作原理がブラックボックス化されている部品に関しては、今も日本メーカーに一日の長がある。それはハイエンド端末向けの部品だけでなく、ローエンド端末向けにおいても同じことがいえる。村田投資有限公司の丸山氏は「マルチバンド対応のRF部品や0603以下のサイズのMLCCなど、地場メーカーでは作れないものが少なくない」という。

 しかも中国のローエンド端末は、10億という圧倒的な加入数を背景に、膨大な数が出荷される。さらに中国内だけにとどまらず、将来的はインドや東南アジア、ロシア、アフリカ、南米といった新興国にも大量に輸出されるようになるとの見方もある。中国市場に詳しいある専門家は「中国では、46米ドルの格安スマートフォンを東南アジアに向けて30万台輸出した新興メーカーも登場している。中国のスマートフォンが海外へと輸出される流れは、今後さらに加速するだろう」と指摘する。

 端末メーカーの勝ち負けが鮮明になっている先進国の市場では、部品メーカーはApple社とSamsung社の2強に食い込むことができれば「勝ち馬に乗った」と言える。しかし、スマートフォンの普及が始まったばかりの中国で、その常識は通用しない。地場や海外の端末メーカーが群雄割拠する状態で、まだどのメーカーが勝ち残るかは分からない。薄型テレビや白物家電がそうだったように、中国地場のメーカーが海外メーカーを席巻してしまう可能性も十分にある。ある部品メーカー幹部は「中国市場では大手の端末メーカーだけでなく、中堅や新興のメーカーを開拓することも不可欠と考えている。Apple社やSamsung社のような企業が中国発で世界に台頭していくという将来に、備えなければいけない」という。

 セイコーエプソン、マイクロデバイス事業部 TD営業部 部長の山口大介氏は「中国では、通信用チップセットのリファレンス設計の推奨部品になるか否かで勝負が決まる」と説明する。部品メーカーにとって、チップセット・メーカーとの関係が重要なのはいうまでもないが、特に中国ではその傾向が強いという。