ICT(情報通信技術)を活用した健康管理・介護・在宅医療の市場成長のために必要なことは何か。こうした「デジタルヘルス」の領域で、日本発の技術がグローバルでイニシアチブを取れる分野は何か――。これらの疑問に対して、主にIT・エレクトロニクスの分野で市場調査を手掛けるテクノ・システム・リサーチ マーケティング・ディレクターの高相緑氏(当時)に、同社が調査した市場動向についての報告を織り交ぜながら、日経BP社が2012年11月に開催した「デジタルヘルス・サミット2013」において示してもらった。本稿では、この講演内容の一部を編集しお伝えする。


 健康管理や介護、在宅医療にICTを活用する動きが活発になっている。現時点では決して大きな市場ではない。しかし裏を返せば、今後大きく伸びていく可能性があり、大きな期待を持てる市場であるとも言える(図1)。

図1 市場は右肩上がり
健康管理と在宅医療におけるICT活用市場の予測を示した。(図:テクノ・システム・リサーチの資料を基に本誌が作成)
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 こうした市場が拡大すれば、エレクトロニクス関連の企業にもさまざまな波及効果が出てくるだろう。例えば、ワイヤレス技術である。健康管理や在宅医療などにおいて、機器などのワイヤレス化は欠かせない。我々は、現在グローバルで出荷されている医療機器にワイヤレス・モジュールが搭載されている割合を調べている。2011年に出荷されたワイヤレス・モジュール搭載の医療機器は500万台ほど。この数は今、どんどん増えている。

 これまで、体温計など小型の機器で電池容量を確保できないものには、なかなかワイヤレス・モジュールは付けられなかった。しかし、Bluetooth Low Energy(BLE)など低電力の技術の登場によって、体温計などのワイヤレス化が進み始めている。それと同時に、こうした機器を使い、インターネット上のサービスを利用して健康管理を実現する仕組みも増えてきている。

 介護の分野におけるICT化も、今後は求められていく。ただし、我々が机の上でパソコンを使う感覚とは全く異なる。介護の現場には、介護される高齢者がいて、介護する人の手は濡れていたり汚れていたりする。そのような環境でパソコンのキーボードを打つというわけにはいかない。こうした中で、例えばヒューマン・マシン・インタフェース関連の技術が進歩すれば、介護ICT市場が伸びていく可能性がある。キーボードではなく、タッチ・パネルや音声認識、さらには脳波を機器への入力や操作に使えるようになれば、介護にICTを活用しやすくなる。

 このように、今後の健康管理や介護、在宅医療におけるICT化には、さまざまな可能性が秘められている。そこで以降では、(1)現時点で市場が立ち上がっていないのはなぜか、(2)今後の技術トレンド、(3)日本が世界的に強みを持てる分野は何か、について我々の調査を基に示していく。