レセコンデータを患者診療情報として持ち出す

 診療所としては高度な医療機器を導入し、専門領域を強化してきた佐々木記念クリニックだが、医療情報のシステム化推進のハードルは高かった。移転後に入院病棟を新設して19床に増床し、加えて検査部門の拡充を進めてきたことで、電子カルテ・オーダリングシステムの選択肢を狭めることになってしまった。「無床診療所向け電子カルテは多く市場に出ていますが、入院やオーダー機能面で満足できるレベルのものがありません。中規模病院向けのシステムと同等の機能が必要なのです。しかし、このレベルのシステムは、有床診療所にとって導入費用が大きすぎるのが現状です」(大関氏)とIT化に踏み切れなかった事情を説明する。

診療放射線技師・事務部課長の大関信彦氏
診療放射線技師・事務部課長の大関信彦氏

 レセコンは導入したものの、その他はカルテをはじめとして紙による運用を続けてきた。特に厄介だったのが、外来の患者から夜間にかかってくる電話への対応。当直の職員は外来診療棟と渡り廊下で結ばれた入院病棟にいるため、電話問合せがあるとコードレス電話の子機を持って外来診療棟の受付に走り、レセコンで患者情報を確認してIDから紙カルテを探し出して質問に答えなければならず、手間がかかるうえに患者を電話口で長時間待たせることも多かった。

 また、同クリニックは訪問診療にも力を入れており、介護老人保健施設の入所患者の診療を担当している。週2回の診察の際には100人分の紙カルテや医用画像フィルムなどすべての情報媒体を準備し、持ち運んでいた。介護施設に出掛けてから必要な情報がないことに気づき、職員が届ける、文書情報をスキャンしてメールで送る、ということもあったという。

訪問診療の際に100人分の紙カルテや医用画像フィルムを持ち運んでいた
[画像のクリックで拡大表示]

 「診療情報の電子化・活用のニーズは高くなっていたものの、どこから手をつけたらよいか苦慮していました。患者基本情報や既往歴、最新の処方情報だけでも電子化して持ち出せないかという要望があり、汎用的なパソコンソフトを利用して患者情報管理をやれないか、と副院長から相談されました。3万人の患者さんの情報を入力し、診療のたびに更新する手作業を考えたら、とても今のスタッフで対応は無理。何とかレセコンに蓄積された患者情報、既往歴、処方歴を利用して、閲覧用の簡易的なカルテとして持ち出せないかと考えていた時に、smart viewerを知りました」(大関氏)。

 個人的にiPadを使っている副院長がその活用を考えていたことに加え、ほとんどの医師が医学部時代にFileMakerに触れている経験があったことも後押しして、レセコン更新を機にFileMakerをベースにしたsmart viewerの試験運用が始まった。