左から、ミトラ代表取締役 尾形優子氏、名瀬徳洲会病院産婦人科部長 小田切幸平氏、岩手県立大船渡病院副院長・周産期医療科長 小笠原敏浩氏、日本赤十字社医療センター産婦人科部長 木戸道子氏、札幌医科大学解剖学第一講座 新見隆彦氏
左から、ミトラ代表取締役 尾形優子氏、名瀬徳洲会病院産婦人科部長 小田切幸平氏、岩手県立大船渡病院副院長・周産期医療科長 小笠原敏浩氏、日本赤十字社医療センター産婦人科部長 木戸道子氏、札幌医科大学解剖学第一講座 新見隆彦氏
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座長の香川大学瀬戸内圏研究センター特任教授 原量宏氏、医療情報システム開発センター主席研究員 山田恒夫氏
座長の香川大学瀬戸内圏研究センター特任教授 原量宏氏、医療情報システム開発センター主席研究員 山田恒夫氏
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 名瀬徳洲会病院(鹿児島県奄美市)産婦人科の小田切幸平氏は、奄美群島の周産期医療におけるICT導入と効果、展望について発表した。

「奄美群島は出生率が高いにもかかわらず、周産期医療体制は脆弱。行政管轄である鹿児島県本土とは遠く、近い沖縄県とは行政区の問題によって救急搬送の問題も生じる。妊婦に対して、緊急搬送になる前の慎重な管理と早めの対応が必要だが、少ない医療リソースでは厳しい状況。少ない人員でも妊婦の安全を確保するための医療機関どうしのネットワークの確立が重要と考え、ICT導入を検討した」(小田切氏)と導入背景を説明する。

 同病院が最初に導入したのは、モバイルCTGによる出産リスクの高い妊婦の在宅モニタリング。小田切氏は「通院が困難な遠方の妊婦で、頻回のCTGチェックが必要な症例に導入している。羊水過少や胎児発育不全、予定日超過などの胎盤機能不全が懸念される症例、あるいは切迫早産などの子宮収縮のモニタリングが必要な症例だ。これを私と助産師2人でモニタリングチェックしている」と運用形態を説明した。

 また、運用の成果と今後の展望について、小田切氏は「モバイルCTGを利用した妊婦からは、『メンタルの安定・安心感につながり、心強かった』『セルフケア能力の向上につながった』という意見があった。今後は、産科医療スタッフのいない地域、医療機関へのモバイルCTGの常備、バイタルサイン計測機としての救急車両への常備、群島内遠方地域の遠隔妊婦健診への活用、などを考えている」と述べた。

 各者の事例発表後のパネルディスカッションでは、座長を務めた香川大学瀬戸内圏研究センターの原量宏氏が、周産期医療ICTの海外展開について、母子手帳を世界に普及させるのを目的に、特にASEAN諸国やアフリカ、中南米への普及を、政府とJICAが中心となって取り組んできた背景を説明した。

 原氏は重ねて、「日本産婦人科医会では、母子手帳によるエビデンスを得るために電子母子手帳の標準化を推進している。これをASEAN諸国に普及させるために、JICAプロジェクトでタイのチェンマイ地域で今後3年間、母子手帳の電子化をはじめとする周産期医療のICT導入を進めていく。これを成功させるためにも、国内における実績を積み上げるとともに、関係各者の協力を仰ぎたい」(原氏)と述べた。