メガソーラーで前提とすべき地表面粗度

——「I」や「II」を想定すべきだと。

吉富 メガソーラーのように、周囲が開けた場所に設置されるシステムではそうなる。資材供給事業者は本来、地表面粗度「I」や「II」を前提に設計し、採用を検討している発電事業者やEPC(設計・調達・建設)サービス事業者に、構造計算例を渡して判断してもらうのが筋だと思う。

 そこまでしないにしても、「III」というのは、東京や名古屋、大阪といった大都市の郊外のように、住宅が多数あるような場所である。そんな地域にメガソーラーを建設する事業者など、まずいないのに、架台製造者は何故そのような架台の仕様を謳うのか。商売上の倫理を疑われる問題だと感じている。

産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター システムチームの加藤和彦氏
(撮影:森田 直希)

 太陽光発電システムの構造を判定するクライテリア(基準)には、建築基準法とJIS(日本工業規格) C8955という二つの体系がある。両者ともに、地表面粗度の判定を含んでおり、その判定を怠っていれば違法となる。しかし、地表面粗度の判定に基づいた判断ができる発電事業者などは、現時点では少ない。

加藤 建築基準法と、基準が少し緩いJIS C8955のどちらを適用するのかは、設計者の判断になるのか?

吉富 法律が複雑で、予備調査と事前計算をせずに、手がけようとしている太陽光発電システムの対象となる法律の種類を見極めるのは不可能である。

通行中の自動車に架台ごと落ちた例

加藤 メガソーラーではなく、住宅用では最近、架台ごと屋根から外れてひっくり返り、道路上に落下した事故の原因を探る機会があった。こうした事故は、残念ながら珍しくない。

 設置後、わずか半年間で起きたもので、こうした事故が起きることは、以前から危惧していた。今回、特に衝撃を受けたのは、通行中の自動車の上に落ちたということだった。

 たまたま、ボンネットの上に落ちた後、フロントガラスとは逆側の道路にバウンドしたために、幸いにも負傷者が出ずに済んだという。ただし、電柱は折れたという。

吉富 これまで、停止中の自動車に太陽電池モジュールや架台が突き刺さった例は、何件か聞いている。しかし、通行中の自動車に落下したという例は、さすがに初めて聞いた。このような状況を放置しておけば、いずれ死傷者が生じてしまうような事故が起きてしまいかねない。

 この太陽光発電システムの事故の原因を探る機会を得て、まず、架台の構造計算の間違いを疑い、調べることにした。架台設計の妥当性を調査するには、設置場所の周辺環境に関して、多くの情報を集める必要がある。地域、建物の横幅や高さ、奥行き、太陽電池モジュールの設置角度、屋根面からの高さなどである。少なくとも、自治体に問い合わせるなどして、その地域の地表面粗度を把握する必要がある。

 さらに、屋根のうち、太陽電池モジュールが設置された範囲や全体の面積に対する比率によって、対象となる太陽光発電システムに適用される法律を見極める。

 本件では、ここまで調べるのに、14時間を要した。施工業者にとって、それだけの時間が与えられれば、住宅用太陽光発電システムの設置工事を1件、終えることができる。だから、施工業者が、その調査を疎かにする心情は理解できないこともない。

 ここから得られる教訓は、事前調査を疎かにする背景があるということである。適用される法律を見極めるだけで、多くの時間と労力が必要になるからである。

 この計算の最終的な目的は、施工業者が設置した架台の強度が、法定値に対して、何%満たしていたのかを知ることだった。実際には、法が求める最低基準に対して、3~9%しか耐力がなかった。