がん診療連携拠点病院は各種のがん登録事業に協力するため、それぞれの登録様式に合わせて効率的な登録作業が求められている。医療機関の独自開発も含めてさまざまな院内がん登録システムがある中で、国立病院機構 大阪医療センターは大阪府立成人病センターで開発・提供していたFileMakerによるがん患者登録システムを改修し、自院で運用すると同時に、ユーザーメード医療IT研究会を通じて他の医療機関へも提供している。


 がん登録は、がん罹患数・罹患率、死亡数・死亡率、生存率などを指標として、がんの実態を把握するためのもので、がん対策や目標が達成されたかどうかを判断するために非常に重要な事業である。日本では1950年代初めより一部の地域でがん登録の制度が始まり、都道府県を主体となって現在まで継続している一方、学会や研究会が中心となって、がんの臨床病理学的特徴と進行度の正確な把握に基づく適切な治療指針の確立、進行度分類のあり方などを検討してきた。都道府県主体のがん登録では、現在、全国のがん患者の罹患情報と死亡情報を悉皆的に収集することを前提とした、がん登録法制化に向けた議論も行われている。

それぞれの目的で実施される3つのがん登録

 現在、日本には「院内がん登録」「地域がん登録」「臓器別がん登録」など3種のがん登録事業がある。

3種のがん登録の位置付け(厚生労働省の資料から)
[画像のクリックで拡大表示]

 院内がん登録は、各医療機関のがん医療の実態と水準を評価するため、医療機関で初めて診療したすべてのがん患者について、診断・治療内容を登録し、予後調査(追跡調査)により生存率を計測するもの。カルテなどから当該患者のがんについての情報を調べ、いつ診断され、進行具合(ステージ)はどの位か、実施した治療、病理検査の結果などを、診療科を問わず病院全体で集めて記録する。全国のがん診療連携拠点病院(397施設)のほとんどで登録が行われ、国立がん研究センターがん対策情報センターでそれらの情報と各都道府県が実施する地域がん登録の情報を集め、全国レベルや都道府県レベルでの各種統計情報提供を進めている。

 地域がん登録は、1950年代後半からいくつかの県・市で疫学調査を主な目的として情報収集が開始され、60年代になって大阪府や兵庫県、愛知県、神奈川県などで府県のがん対策の一環として開始された。ただ、全国レベルでの実施推進は2002年の健康増進法に基づいて自治体の努力義務化により徐々に拡大してきたもので、昨年度やっと47都道府県が実施する運びとなった。厚生労働省の第3次対がん総合戦略研究事業の「がん罹患・死亡動向の実態把握に関する研究」(研究代表者:祖父江友孝氏)において、登録業務の標準化、効率化、品質管理、登録資料の有効活用を実現するために「標準データベースシステム」(以下、標準DBS)が開発され、各自治体で導入が進められている。

 一方、臓器別がん登録は、学会や研究会で行われているがん登録で、日本胃癌学会、日本乳癌学会、日本肝癌学会などで取りまとめが行われている。

 それぞれの目的で促進されてきたがん登録事業だが、課題も多い。地域がん登録では、自治体レベルで漏れなくデータ収集することが重要だが、(1)小規模病院や診療所にとって標準登録項目(25項目)を届け出るための作業負担が大きく、医療機関の自主的な協力によっているため登録漏れが起こっている、(2)実施している自治体にとって財政的な負担になるため取り組みに対する温度差がある、(3)地域がん登録を担う人材や研究者の確保が十分でない、といった課題がある。

 院内がん登録の課題は、米国の腫瘍登録士(米国腫瘍登録士協会認定)のようながん登録に関する専門的知識を持ったコメディカルスタッフの不足から院内全体をカバーした院内がん登録を行う施設が多くない、患者の登録漏れや追跡調査が不十分、などだ。また、臓器別がん登録では、それぞれ各臓器の専門医がデータ収集・解析を行っているため細かな情報が収集可能だが、登録項目が多いため臨床医の負担になっている、あるいは予後調査ができていない、などの課題がある。

 こうした中、院内がん登録の効率化と精度向上を目的に院内がん登録システム開発・普及に努めるとともに、大阪府の地域がん登録の中央登録室として長年貢献してきたのが、大阪府立成人病センターのがん予防情報センターだ。