前回から続く

 がん病巣の体の表面からの深さに合わせてピンポイントで粒子を照射できるという粒子線治療の特徴を、より一層進化させる装置の開発も進んでいる。

 例えば、日立製作所の「スポットスキャニング照射」と呼ぶ技術がそれだ。同技術は、加速器と電磁石で陽子線のビームを3次元方向にそれぞれ細かくスキャンさせるものである。従来技術のようにがん病巣の幅に合わせるだけでなく、病巣の複雑な3次元形状に合わせて塗りつぶすように照射できるため、病巣周辺の組織への不要な照射を防げるとする。

 現時点で、スポットスキャニング照射技術を採用した陽子線治療装置を稼働しているのは、世界最大級のがん専門病院である米国のM.D.アンダーソンがんセンターのみ。しかし、稼働に向けて導入を進めている事例は幾つか出始めている。

 例えば日立製作所は2011年5月、同技術を採用した陽子線治療装置を、米国の大手総合病院であるMayo Clinicから2式分一括受注したと発表した。Mayo Clinicは、年間50万人以上の患者を治療する大手総合病院。世界中から難病を抱えた患者が訪れたり、米国の歴代大統領や国内外の要人が治療を受けたりするなど、米国でトップの医療体制を整えた医療機関として知られている。同装置を導入する施設はそれぞれ2015年夏と2016年春に完成した後、治療を開始する予定であるという。

図1 最新の「スポットスキャニング照射技術」が名古屋に登場へ
日立製作所の最新の陽子線治療装置が導入される、名古屋市のクオリティライフ21城北の外観(a)。3室用意される照射室のうち一つが、スポットスキャニング照射技術を採用したものとなる(b)。(図:(b)は日立製作所の資料を基に本誌が作成)
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 国内でも、スポットスキャニング照射技術を採用した陽子線治療装置が2011年1月に薬事承認を取得した。これを受けて現在、名古屋市のクオリティライフ21城北に同技術を採用した治療施設の建設が進められている(図1)。同施設での治療は、2012年度中にも始まる見込みである。