「養命酒」といえば、日本人なら誰もが知る薬用酒である。埼玉県鶴ヶ島市の閑静な住宅街に、この国民的な薬用酒の製造元である養命酒製造が運営するメガソーラー(大規模太陽光発電所)「鶴ヶ島太陽光発電所」(図1)がある。出力は約1.9MWである。

図1●養命酒製造 鶴ヶ島太陽光発電所の航空写真。住宅街の中にあることがよくわかる
(出所:養命酒製造)
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 メガソーラーを建設した土地は元々、旧・埼玉工場が1961年から2006年まで稼働していた場所である。同工場では、「養命酒」の原料である、ぶどう糖などを製造していた。敷地内には、原料の工場のほか、社員寮や野球場などもあった。だが、原料のぶどう糖を外部で製造することになり、2007年に工場を閉鎖して更地とし、跡地の有効活用を模索してきた。

 ただし、跡地を有効活用するにあたり、課題があった。旧・埼玉工場が稼働を始めた当時とは、周囲の環境がガラリと変わっていたことである。かつて、農地に囲まれてのどかだった風景は、今では一変し、住宅に囲まれている。

 このため、隣接する住宅地に、においや騒音の影響が及ぶようなタイプの工場は建設できない。しかも、周辺の道路は、工業地帯のような広い幅では整備されていない。このような条件もあって、工場の建設を決断する企業と出会うことは難しかった。

 このような状況の中、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の施行が決まり、竹中工務店からメガソーラーの建設に関する提案を受け、参入への検討を始めた。メガソーラーならば、近隣する住宅地ににおいや騒音などの影響はほとんどない。施工時を除けば、大型トラックなどの出入りも、ほとんどない。

 さらに、太陽光発電という再生可能エネルギーによる売電事業は、「豊かな健康生活に貢献する」という、養命酒製造の経営理念を補完する事業となりうる。そこで、定款を変更し、売電事業への参入を決定した。