メガソーラービジネスを安定的に運営し、収益性を高めるには、「発電事業者」である運営者が最低限の電気設備の知識を備え、適切な太陽光発電システムを構築・運用するのが前提になる。国内メガソーラー向けパワーコンディショナー(PCS)の最大手である東芝三菱電機産業システム(TMEIC)の技術者で、当サイトのアドバイザーでもある伊丹卓夫氏が、メガソーラーに新規参入した事業者が抱く、いまさら聞けないメガソーラー技術の基本に答えた。

 太陽光パネルの定格出力は、日射強度が1kW/m2、太陽光が地上に届くまでに通過する大気の量であるエアマスが1.5、太陽光パネル内の発電素子である太陽電池セルの温度が25℃という条件で出力する電力として定められています。

 しかし、日本の気象環境では、日射強度が1kW/m2になるのは、1年間のうちに数時間あるかどうかという稀有な条件です。これより低い日射強度で、1年間のほとんどの時間、発電しているのが日本における太陽光発電の状況で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「標準気象・日射データ(METPV-3)」によると、日射出現率の30%以下の時間帯が約6割を占めます。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「標準気象・日射データ(METPV-3)」を基に著者が作成
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 さらに、前回紹介したように、太陽光パネルから電力系統への接続点に到達するまでに、約20%の電力をロスしています。

 この二つの理由によって、パワーコンディショナー(PCS)の定格出力をできるだけ使い切ることが、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の売電量を最大にし、収益性を高めるために有効な設計の手法の一つとなります。

 すなわち、接続点に到達するまでの約20%のロスと、日射が少ない時間帯の発電量の低下を見込んで、太陽光パネルをPCSの定格出力より多く並べることで実現します。これが、太陽光パネルとPCSの出力容量に差のある発電所がある理由です。

 NEDOの「大規模太陽光発電システム導入の手引書・検討支援ツール」(Step-PV)によると、日本ではおおむね、PCSの容量に対して、太陽光パネルの容量を1.3倍にすることで、PCSの定格出力での稼働に近づくとしています。

晴天時の実測データを基にシミュレーションによって太陽光パネルの容量の増加分を設定し、増えた発電量を算出した例(著者のデータ)
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 この1.3倍という数値は、PCSをできるだけ多くの時間、定格に近い出力で稼働させながら、太陽光パネル全体の発電量が、PCSの定格出力を上回ることで、売電できない電力の発生を最小限にする、というバランスから導かれたものです。

 一般的には、収益性の面からは、これを1.4倍に引き上げることが望ましいとされています。この場合、太陽光パネルによる発電量が、PCSの定格出力を超える時間帯は増えますが、それ以外の時間帯での発電量が増えるために、売電量を増やすことができます。

 この売電量の増加分と、太陽光パネルの導入コストの増加分を比較すると、売電量の増加による収益力の向上効果の方が大きく、十分に投資額の増加分を回収できるという判断です。もちろん、このバランスは、太陽光パネルの価格と1kWh当たりの買取価格によって変わってきます。

 また、PCSの稼働を、できるだけ定格出力に近づけた方が良い理由が、もう一つあります。PCSメーカーによって違いがある部分ですが、定格に近い出力で稼働させる方が、一般的にPCSの変換効率が高くなるということです。

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■変更履歴
後ろから3段落目の冒頭を、公開当初の「経済産業省が公表した資料では」から、「一般的には」に修正しました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2014/01/19 23:00]