私は、富士ゼロックスのデザイン部門に在籍しているデザイナーです。富士ゼロックスでは十数年前から、デザイン部門を中心に「人(ユーザー)」の視点に立ったデザインや製品設計をするための手法として、行動観察(当社では「ワーク観察」という言葉を用いますが、ここでは「行動観察」に統一します)を取り入れています。数年前からは社内の技術者教育プログラムの中に行動観察の視点を組み込み、技術者個人の「観察眼」を養ってきました。私は行動観察を日々の業務で実践しつつ、この技術者教育プログラムの講師も務めています。

 これから3回にわたって、そんな富士ゼロックスの取り組みの背景にある考え方を紹介していきます。

 行動観察の具体的な導入方法を説明する前に、ものづくりプロセスにおける行動観察の位置付けについて触れておきます。これをしっかり押さえておくと、皆さんが自身の職場で取り入れるときにきっと役立つと思います。

 皆さんの多くは、何らかの設計活動に携わっていることでしょう。その対象は、ハードウエア、ソフトウエア、両者の複合体、Webサービスなどさまざまではないでしょうか。しかし、対象は違えども、基本的に実行していることは同じ。「現在は存在しない物やサービスを、構想し、実現可能にする」ということです(図1)。この設計という行為と行動観察は一体どのように結び付くのでしょうか。

図1●設計の定義とその目的
図1●設計の定義とその目的
設計という行為を改めて考えてみると、「人(ユーザー)」を基点にすることの重要性が見えてくる。