「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画の熊本編では今回、ベビーリーフを生産/出荷する農業ベンチャーの果実堂を取り上げている。前編では、同社が工業製品と同じ見方で計画的にベビーリーフを生産する姿を紹介した。同社は、生産管理工程データベースや販売管理データベースを駆使するのが特徴だ。データベースの活用により、予測したカレンダー通りに生産は効率よく進む。だが、果実堂によれば、生産管理や販売管理は完成したといえる一方で、生産効率向上や生育コントロールのシステム化と制御などに手付かずなところがあるとする。そこで登場するのが、センサの活用だ。後編では、果実堂が富士通九州システムズと資本・業務提携して進める取り組みを聞いた。

センシング・データを作業員の制御スケジュールに生かす

 果実堂と富士通九州システムズは、センシングで得られた測定データとベビーリーフの栽培技法を関連付け、栽培技法の最適化を目指している。センシングにおいては、富士通九州システムズが開発したデータ・センシング技術および富士通のクラウド技術を用いて、果実堂が保有するハウス内の温度や湿度、CO2濃度、土壌水分量などをリアルタイムかつ正確に把握するという。富士通九州システムズのデータ・センシング技術で用いる機器は、植物生産に向けた規格化された通信規格UECS(ユビキタス環境情報システム)に対応する。

 環境データのセンシングおよびデータに基づいた生産といえば、クラウドを使ってハウス環境を自動制御する姿が想像される。例えば、温度が上がれば天窓を開けるなど、センサで温度や湿度、土壌成分を把握して、それらを所望の値にするために制御するといった具合だ。だが、果実堂は作業員の人手によって環境を制御することがほとんどであり、完全な自動化は狙っていない。

 果実堂では富士通九州システムズと協力する前から、ハウス内の温度や湿度といった環境データを把握してきたものの、作業の効率化にすぐに結び付かなかった。まずは、センシングによって判明した環境データに基づき、人手の作業を行うキッカケを効果的に得られるようにする。それにより、人手の制御を効率的に実行できるようにする考えだ。

 果実堂が熊本地域で管理するハウスは約250棟。そこを若い作業員10人で、ベビーリーフを栽培している。作業員は一人当たり50棟程度と多くを担当するだけでなく、農業経験が浅いために作業効率はまだ高いとはいえないという。ハウスの温度や湿度、CO2濃度、土壌水分量など遠隔地で把握できれば、作業員の制御スケジュールを効率的に立てられるようになるのだ。