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熊本は農業ベンチャーに最適な地、ICT活用の新世代農業で挑戦(前編)

果実堂

大久保 聡=日経エレクトロニクス
2013/11/05 00:00
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ベビーリーフのパッキング工程。仕様に合わせて複数品種を混ぜる。色合いや味、栄養価など100種の分類があるほか、季節に応じて混ぜる品種は異なる。
ベビーリーフのパッキング工程。仕様に合わせて複数品種を混ぜる。色合いや味、栄養価など100種の分類があるほか、季節に応じて混ぜる品種は異なる。
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果実堂の研究所では、各地の土壌を調査している。写真中央部に並ぶ長細い茶色の部分は、各地の土壌を収めたサンプルである。
果実堂の研究所では、各地の土壌を調査している。写真中央部に並ぶ長細い茶色の部分は、各地の土壌を収めたサンプルである。
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生産管理工程のデータベース例
生産管理工程のデータベース例
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果実堂 代表取締役 社長を務める井出剛氏
果実堂 代表取締役 社長を務める井出剛氏
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 「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画の熊本編で次に紹介する企業は、ベビーリーフなどの葉物野菜を生産する、農業ベンチャーの果実堂(熊本県上益城郡益城町)である。同社はメーカーが工業製品を工場で生産するかのように、葉物野菜を栽培する各種データを管理し、計画的に生産していることが特徴だ。生産したベビーリーフは日本各地に出荷されており、東京や大阪の有名百貨店も得意先に名を連ねる。

†ベビーリーフ=葉物野菜の幼葉の総称。栄養価が高いとされる。果実堂は複数品種のベビーリーフを生産し、それらを混ぜた製品を出荷する。

 果実堂は、季節や天候、土壌、水、肥料といった情報をデータベース化し、生産と受発注、出荷を効率的に結び付けている。「農家の長年の経験と勘」に頼るのではく、その姿はあたかも電子機器や部品を受注状況に合わせて計画的に生産するかのようだ。三井物産や矢崎総業、エア・ウォーターといった有名企業が主要株主に名を連ね、同社の注目度の高さをうかがわせる。ベビーリーフの生産のさらなる効率化を図るため、富士通九州システムズと協力し、同社が開発したセンシング技術と富士通のクラウド技術を用いた栽培管理にも着手。2013年3月には富士通九州システムズが果実堂に出資し、主要株主の一つとなった。

 肥沃な土地が広がるとされる熊本は、もともと農業県。高度経済成長期以降、大手企業の工場を誘致し、そこを核に県内の製造業が育ってきた。そして今、かつての主要産業と現在の主要産業が結び付き、新たな産業の形が生まれようとしている。果実堂が熊本を創業の地として選んだ理由や、同社が進めるICT活用の新世代農業を探った。

熊本は農業ベンチャーに最適

 果実堂は2005年に熊本で創業。創業以来、阿蘇を中心として農場の拠点を広げている。果実堂の創業者であり、代表取締役 社長を務める井出剛氏によれば、農業ベンチャーを興すには現在の地は最適であるという。

 ベンチャー企業を起業するときに必要なものといえば何か。技術力を要にするのであれば、技術的なリソースがあるところが適している。例えば、バイオ技術であれば米国ボストン、ITであればシリコンバレーであろう。それでは農業ベンチャーでは何が必要か。井出氏によれば、水と空気、そして土壌が良い場所が、農業を行うための潜在的なポテンシャルが高く、起業に適しているという。つまり、太古の昔から農業が盛んな地域がポテンシャルが高く、農業県であった熊本がそれに当たると説明する。

 日本国内を見渡すと、農業が盛んな地域は他にもある。例えば、関東地方でいえば千葉県や茨城県などが挙がるであろう。だが、大規模に栽培することを考えると、大都市近郊は地価が高く、十分な土地を確保するのは困難だ。一方、「熊本は十分な土地を確保できる」(井出氏)。

地域ごとの土壌の違いを“データ”で埋める

 果実堂が生産するベビーリーフは、2013年3月時点で年間330トン。ベビーリーフの生産量としては、国内最大規模という。ベビーリーフはすべて、ハウスでの土耕栽培だ。生産するハウスは熊本地域で約250棟もあり、立地する場所も分散している。栽培に適するといっても、ハウスの土壌の質は均一ではない。果実堂はこうした土壌の違いをデータで把握した上で、ハウスごとのベビーリーフの差を極力小さく抑える工夫を施している。

 果実堂 品質管理室 室長の蓑田知江美氏によれば、土の固まり具合(団粒化)の管理と水の管理が土耕栽培では重要になる。そこで、ハウスで実際に栽培を始める前に、あらかじめ各地の土壌を調査しておく。水分率や許容できる水の範囲、土壌のpHなどを確認するとともに、肥料を加えたときの状態の特徴も踏まえるのだ。こうして、土壌ごとに水や肥料などの管理方法を導き出し、土壌が異なっても栽培するベビーリーフの品質が均一になるような下地をつくっておく。

 ここで重要なのが、どの土壌での栽培に合わせるのかという基準だ。果実堂では、ハウス栽培を始めた熊本県の益城町の土地を基準に据える。そこで栽培したベビーリーフに近い品質になるように、土壌ごとの管理方法にのっとって栽培条件を最適化していく。果実堂によれば、益城町の土地は黒土で、植物の栽培に合っているので基準に適するという。

 ハウスが立地する土地は均一ではない。水田跡だったり、地域ごとに土壌が違ったりする。益城町のハウスと同じ栽培条件では、所望のベビーリーフは得られない。そのジレンマを解消するために、2~3年を要して上述したような土壌に関するデータを集め、土壌ごとの栽培方法についてノウハウを構築した。ベビーリーフとして栽培する6~7種類の植物についてデータを蓄積しており、ハウスが立地する土壌が異なっても均一な品質で栽培できるようになったのは「ここ2年くらい」(果実堂)という。

 土壌の違いを分析するのは、果実堂に限った話ではないだろう。同社によれば、土壌の分析だけでなく、葉物野菜の生育や品質に関連付けているところが特徴とする。同社は、葉の内部にあるNO3-を測定し、品質を判断している。NO3-が多いと、虫が付いたり、痛みやすくなったりするという。同社が生産するベビーリーフは、他社の生産品に比べてNO3-を低く抑えている。

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